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[コメント] つぐみ(1990/日)

序盤のカット構成、モンタージュは「とても面白いことするなぁ」と思いながら見た。冷凍マグロの尾を切るショット。並べられたマグロから湯気のような白い煙が立つ。築地か。海についての女性のモノローグ。
ゑぎ

 中嶋朋子が画面に映ってモノローグが彼女のものだと分かる。母親とシネスイッチ銀座で『二十四の瞳』を見るシーンで映るのは、大石先生が金毘羅でマツエと会う場面。高峰のアップショットも挿入される。映画館を出ると銀座の通りにはシネパトスの看板も見える。そして勝鬨橋。月島の方へ渡る途中、隅田川にカメラを向け、水面のショットになる。これがディゾルブでいつの間にか、西伊豆の海面に変化している(西伊豆というのは後で分かることだが)、このカット繋ぎには、唖然とするような驚き−創造性を感じた。

 この後、カメラは港(入り江)に面する旅館「梶寅」にゆっくりと寄っていき、部屋の中にディゾルブで繋いで牧瀬里穂が登場する。彼女の後景の窓の向こうに、入り江を航行する小さな船を映すショットにも感心させられる。こゝから、牧瀬の通院風景や子どもの頃からの行状を繋ぐシーケンスになり、もう本作がかなり特異なリズムを有することが、はっきりしてくるのだ。この間延びした編集のリズムは、有り体に云えばオフビートと云っていいのかも知れないが、実は私は、段々と飽きが来てしまった。

 また、性格が悪く、口も悪い牧瀬の造型は、いいところまで行っているが、もっともっと過剰でも良かったとも思う。見終わって原作を読んだが、原作の「つぐみ」の方が、よりサイコパスだったのではないか。いや原作との比較云々は置いておくとしても、映画的にもっと極端な造型で良いと考える。もっともっと暴力的でいい。とは云え、牧瀬、中嶋に、牧瀬の姉を演じる白島靖代を加えた3女優の最も美しい時期(3人とも撮影当時ほゞ19歳)を捉え、残した価値は十分認められるし、中盤以降も良い画面、演出が間欠的ではあるが、出てくる。

 例えば、めちゃ若い吹越満ら不良たちにやられっぱなしの、めちゃカッコいい真田広之。そのショットが、海を挟んだ超ロングで映されるという画面設計は良いと思った。あるいは、実の妹を捜すという筋書きのテレビ番組の最終回を見た後、牧瀬、中嶋、白島の3人が脱力しながら夜の道を歩き、「あの世みたい」な浜辺の風景に行き当たるという放りっぱなしの緩い挿話が好きだ。こゝが原作にあるかどうかとても気になっ部分で、やっぱり原作を元にした挿話だと分かったのだが、いずれにおいても、主人公−牧瀬の精神が、この世とあの世を行き来する心持ちを描いた重要な場面だと感じられた。映画としては、あの世みたいな風景を画面として提示する、映画ならではの力が奏功した部分だと思う。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・牧瀬の父母は安田伸渡辺美佐子。この2人、意外と目立たないので勿体ない。

・中嶋の母親は高橋節子という人だが女優なのか?渡辺美佐子の妹役でもある。中嶋の父親はあがた森魚。脇役では、この人が案外目立っている。

・牧瀬の掛かり付けの医院の医者で下絛正巳。真田広之の兄は財津和夫。白島と中嶋が働くケーキ屋の店長で高橋源一郎

・舞台となる港町は静岡県の松崎町。終盤の東京のレストランのシーンは高円寺。

・牧瀬が飼っている犬の名前はピンチ(原作のポチとも権五郎とも違う)。

(評価:★3)

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