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[コメント] 乙女ごころ三人姉妹(1935/日)

成瀬のPCL(東宝の前身)移籍第一作でありトーキー一作目。矢張り、音使いは創意に溢れている。こういうことをやりたかったんだろうなぁと、何度も思わせられた。
ゑぎ

 冒頭、路上の鳩からティルトアップし浅草寺や仲見世通りのショットを思いのほか多く繋げた後(パンを使ったショットが多い)、三姉妹で最初に登場するのは、三味線を持った堤真佐子だが(鼻緒の切れた下駄から見せる)、彼女と大川平八郎をちらっと出会わせておいて、そこにオフ(画面外)で「あたしのお姉さんね。門付けなの」と堤の妹−梅園竜子の声(大川に対して云う科白)を入れるという凝った処理がある。これは実にキャッチする導入部だ。

 三姉妹は長女が細川ちか子でその妹に堤と梅園という配役。ただし、細川は男−滝澤修(クレジットでは「脩」)と駆け落ちし家出しており中盤まで登場しない。家業は門付けで次女の堤が継いでおり、三女の梅園はレビューガールだ。音使いへのこだわり、という点では、もとより、音楽に関係のある舞台背景が選ばれているのだ。堤や若い弟子たち(3人いる)には、カフェや飲み屋で三味を弾きながら唄うシーンがあり、梅園には踊子の一人として舞台で踊るミュージカル場面がある。もっとも門付けの場面は、客に懇願してもなかなか唄わせてもらえないという悲哀を描いた部分が強調されており、店の女給に無言でレコードをかけられて(音楽が流れだし)、追い出されるといった場面もあるが、これも良い音使いの演出になっている。あるいは、重要なシーンでレコードの針飛びを盛り込んだりもしている。また、川岸で今川焼みたいなものを食べている堤とカメラを持った青年とのやりとりのシーンは、ワザと劇伴だけで科白を隠蔽したサイレント趣向の演出をやっていたりする。

 成瀬らしい画面造型の機微という点では、冒頭近くの(上で最初に書いた梅園のボイスオーバーの後の)、梅園と大川が隅田川沿いを歩くシーンで既に、やっぱり歩きながら会話する人物のカッティングは上手いなぁと思わせられる。他にも、堤と梅園の部屋での会話シーンにおける梅園を振り返らせてから堤に切り返す演出だとか、堤のフラッシュバックの中で、細川と堤を続けて振り返らせながら、ドンデン(180度のカメラ位置転換)で繋ぐといったカッティング、あるいは、後半の細川のフラッシュバックでは、滝沢と細川の会話場面をずっとドンデンで見せるといった演出が確立していることも指摘しておきたい。

 あと、フラッシュバックについて。沢山あるわけではないが、かなり目立つ使い方と云えると思う。例えば、細川の登場は、松屋の屋上で煙草を喫う仰角ショットだが、これは堤による回想だ。さらに堤の回想の中の細川が、滝沢のことを語るフラッシュバックの入れ子があり、後半には、細川が駆け落ち後の暮らし向きを語る長い回想の画面化シーンがある。これらフラッシュバック挿入の演出には規則性があって、回想に入る前の人物の顔をフォーカスアウトさせ、回想後にはその人物の顔をフォーカスインするという処理を律儀にやっているのだが、これはちょっと中途半端でかったるい演出に思えた。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・三姉妹の母親は林千歳。今の言葉でいう毒親として徹底して描かれている。

・バーの酔客で藤原釜足、飲み屋で堤に絡む大男で岸井明が共にワンシーンのみ。

・浅草のチンピラみたいな役で前半は三島雅夫、後半は大友純が登場。

・梅園が鼻唄で唄うのは「唯一度だけ」(『会議は踊る』の主題歌)。

(評価:★3)

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