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[コメント] 泣蟲小僧(1938/日)

林芙美子らしい芯のある辛辣なタッチ。どうしようもない中でも前向きで、叙情に流されないのがいい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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息子の母親への片想いの話。相思相愛が当たり前の家庭にあって、片想いが発生するプロセスはどれも苦いものがあるが、母親に拒否される子供はなかでも辛いものがある。ある種の児童映画なら叙情一辺倒のズルズルベッタリの作品になってしまいそうな処を、豊田は林芙美子独特の辛いタッチを巧みに引き出して佳作に纏めている。

ベストショットは落ち葉の掃きだめが部屋で寝転ぶ一木礼司にオーバーラップする処だろう。この新しい父(再婚しているのか最後まで不明だが)はゴミだと云っているのだ。誰が云っているのか。このショットは客観的なもので、子役の林文雄の主観ではない。だから映画自体が林を応援していることを示している。しかし孤独な林君がこれに気付くことはできないのだ。切ない処である。

出てくる人物がみんな一癖あって、林芙美子の周囲にはこんな連中ばかりだったのだろうと思うととてもリアルだ。本作は子供にかこつけてこれらの一面滑稽な人物を紹介する作品になっており、『放浪記』のユーモア版の趣がある。林本人は登場しないけれど。

電気代の集金から隠れる芸術家夫婦など、林本人の体験談なのかも知れない。貧乏を愉しむような市川春代はここでも最高だ(『鴛鴦歌合戦』への主演は本作の翌年)。売れない作家の藤井貢も同様、いなくなった子供を探さずひとりで家に戻ってふて寝してしまう無茶苦茶振りが実に情けない。市川夫婦もいずれこうなるのだろうというのが匂わされる辺りも上手い。

そしてやはり栗島すみ子の「悪役」振りが素晴らしい。あの鴉声が抜群に効いている。こんな母親でも息子にはただひとりの母親なのだった。尺八吹きの山口勇はいい人だなあ。箱根の山を唄う件は数ある物干台映画のなかでも出色のものと思う。もうひとつ忘れ難いのは、居酒屋に突然入ってきて唄い出す少女の件。ラストで繰り返される箱根の山と倍音を響かせている。子供だろうと叙情に任せずある種辛辣に扱うタッチがとても好ましい。歌でも唄ってやって行きなよ、という。

(評価:★4)

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