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[コメント] ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生(1968/米)

「リビングデッド」に囲まれて篭城する――そして展開されるどうしようもない人間たちのドラマ。「化け物」という斬新なアイデアを用いておきながら、結局描くのはこの人間たち、という逆説を利用した天才的演出。 2007年2月20日DVD鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ロメロの代表作にして、もしかすると頂点なのではないだろうか。

作品に貫かれる「(観客の期待の)裏切り」が心地よい。主人公が黒人。錯乱した女性。あまり強くなさそうな若い男。その男にくっつくしか出来ない若い女。意地汚いハゲ親父。自分では何もせずに、椅子に座ってるだけの女性。

これだけ濃いキャラクターが揃うと、当然として物語は「リビングデッド」との攻防ではなく人間同士の小競り合いを描き倒す。それは低予算だからこそ、化け物との攻防が描けなかったということもあるのだろうが、結果的にそれが功を奏して、「怖い」というよりも「すばらしい」ホラー映画となっている。

結局、「家から出れない」という状況を上手く活用したのが、この作品の最も凄いところで――その意味では『CUBE』や、近年「ソリッド・シチュエーション・ムービー」などと喧伝されている『SAW』シリーズの起源ともいえる作品ではないだろうか――確かに、ロメロの「リビング・デッド」という新たなホラー映画史上の発明は素晴らしく、これによって低予算でもホラーが作れることを証明してみせたのだろうが、それでも結局描いたのはペシミスティックな結末への物語と、篭城戦の限定空間に於ける人間ドラマの「薄汚さ」であった所が、このジョージ・A・ロメロという天才映画監督の凄さを物語っている。

通常「リビングデッド」なるものが登場すれば、それらとの闘いが描かれることが期待される(少なくとも俺は期待した)が、そこで敢えて彼らを「ただ外で徘徊しているだけ」の存在に落としてしまう所に、この監督の意図的な、逆説を用いた天才的な演出に感服するのみだった。

意地汚さそうな中年はげ親父と、若い黒人との行き詰るいがみ合い。結局、彼らがどこかでバランスを崩せば外のゾンビ地獄に全員投げ出されてしまう――その緊張感を出すために「リビングデッド」は外に配置されているだけでしかない。ありがちな冒険活劇に堕してしまうことなく、あくまで正統に「恐怖」を追及したロメロの天才的な演出に、ただただ唸るばかりである。

そしてペシミスティックなラスト。助かると思った所で射殺される衝撃。何となく予想はしていたけども、しかしここまで期待を裏切られてくると、別に許せてしまう。やっぱりロメロは凄い。

余談になるが、ロメロの以降の作品は『ゾンビ』『死霊のいけにえ』『ランド・オブ・ザ・デッド』と少しずつスケールを大きくしてく。そのプロセスで描かれるのは、やはり「人間」なのだが、しかしながらスケールが大きくなってしまうと、当然、この記念すべき第一作目にあるようなリアリズムが薄れてしまってくる。

二作目までならまだ路線は同じく見えるのだが、3作目以降は、もうSF的なスケールになってしまって、そこには当初の面影は見られない(まぁそれはそれで面白いのだけど)。

この作品は、低予算だからこそ生まれた奇跡とは思えない(なぜなら、この次に『ゾンビ』という傑作が作られるのだから)のだが、後の作品を思い出すと、やはり低予算だからこそイマジネーションは沸騰するのだろうかと、少し悲観的に考えてしまう。

(評価:★5)

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