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[コメント] ウエストワールド(1973/米)

ロボットは人間を映す鏡である。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2009年3月16日、産業技術総合研究所は女性型ヒューマノイドロボット「HRP-4C」を開発したと発表し、そのデモンストレーションを行なった。リアルな女性の顔を持つ人型ロボットが笑ったり怒ったりびっくりしたりといろんな顔の表情を披露しており、ニュース等でご覧になった方も多いと思う。そしてこのロボットを見て真っ先に『ウエストワールド』を思い出した方もいただろう。将来このロボットがびっくりした顔をしながら人間を襲う日が来るのかと思うと感慨深いものがあった。

それはさておき、この映画は最先端技術の暴走と恐怖という点で『ジュラシック・パーク』と同系統である。また、自分たちの創った怪物に滅ぼされるという構図は『フランケンシュタイン』が原型と言えるだろう。しかしこの映画で特筆すべき点は、人間とロボットが合わせ鏡のような存在として描かれている点である。

映画の冒頭で、はじめて西部の町にやってきたメガネの中年男性が鏡の前で銃の練習をする場面がある。そこで彼は勢い余って銃を発砲してしまい、鏡の中の自分を撃ってしまう。また映画の中盤で、ホテルの部屋にやってきたユル・ブリンナーを主人公が撃ち殺すシーンで、主人公は最初に間違って鏡の中のブリンナーを撃ってしまう。この二度にわたる鏡を使った演出から「人間、鏡、ロボット」という三つの要素を結びつけると、「人間と同じ姿・形をしたロボットは人間を映す鏡である」という解釈が考えられる。そこで私はその解釈をもとに、ロボットが暴走した理由を推測してみた。

まずはレジャーランド・デロスにおける人間の行いを振り返ってみよう。デロスはまさに西部の無法地帯であり、己の欲望のまま暴力とエロスを存分に堪能できる大人のための遊園地。(おそらくデロスとは「デス」と「エロス」が合体したネーミングと思われる)主人公は法の番人とも言える弁護士であり、最初はとまどいながらも結局は法を破る無法者として暴れ回る。ここで主人公を弁護士としたことで「法」を意識した設定がポイントだ。人間は実生活においては法のもとで抑制した生活を送っているが、その裏には人を殺してみたいという獣性が潜在的に眠っているのだ。

次にロボットであるが、ロボットはコンピューターが設計しており人間にはその仕組みはわからない。おそらくコンピューターは人間の望むロボットを作ろうとしたはずであり、デロスにおいて求められるのは人間そっくりなロボットで、その行動も人間そっくりになるようプログラムされていたと思われる。そしてロボットはロボット三原則という絶対的な「法」に基づき規制されていたはずである。そんなロボットの三原則が人間の法に相当するのであれば、人間にとっての法もまた三原則と同じくらい絶対でなければならないはず。ところがデロスでは人間社会の法は無視され、各々が好き勝手に欲望のまま動いている。そんな暴走した人間の本性を見て、法を守らないことが人間らしさだとロボットが判断したならば、その行動にも納得が行くのではなかろうか。そう考えるとロボットは暴走したのではなく、むしろ忠実に人間の姿を模倣した結果だったとも言えるのだ。

ホラー映画の名作『ゾンビ』も人間の姿をした怪物であったが、「ゾンビとはわたしたち自身」という名言を残している。同じように人間の姿をしたロボットもまた、わたしたち自身を映し出す鏡なのだ。近い将来デロスのような人型ロボットが作られた時、そこで試されるのはわたしたち自身の良識なのかもしれない・・・とか言いながら、デロスの料金が経済対策で一日1000円になったら喜んで行ってしまうであろう自分がいる・・・。なんだかんだ言って男の夢、デロス万歳!!

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)荒馬大介[*]

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