[コメント] わが愛(1960/日)
上に書いた順位は、ワタクシ的なヒロインの好みの反映が大きい。画面あるいは演出の映画的妙味については、甲乙つけがたいものがある。
冒頭は有楽町の駅前。飲み屋から出て来た佐分利信が倒れる場面から始まる。すぐに葬儀シーン。佐分利の妻は丹阿弥谷津子。こゝに誰も知らない女、有馬稲子がやって来るのだが、これが、本当にいきなりの登場カットなのだ。皆が見る前で、佐分利の顔を覆う白い布をサッと取り、顔を凝視する。抜群にインパクトのある出だしだ。
有馬の宿は、烏森。宿の女中で石井富子。沢山のお銚子。こゝの科白回しもいい。酔ってないけど酔っているみたいな。この場面で有馬の回想・ナレーションが入り、フラッシュバックする。
出会いは17歳だと云う。柳橋。当時、叔母さんの高橋とよが置屋をやっていて、有馬は見習いで住みこんでいた。有馬を可愛がってくれた芸者−乙羽信子の馴染みが佐分利だったのだ。両国の川開きの日(花火大会の日)。有馬にたくさん酒を飲ませる佐分利(17歳の娘にだ)。乙羽と3人で蚊帳の中で寝ることに。「もう寝た?」と乙羽。耳をふさぐ有馬。事が済み、乙羽が部屋を出ていった隙に、佐分利は有馬に「大きくなったら浮気しようね」と云う。佐分利の真面目そうでイヤラしい感じが絶品だ。素晴らしい!
それから5年後、再会した際、有馬は「大きくなったら」の科白のことを覚えているか、佐分利に聞く。覚えていない素振りをする佐分利だが、ニヤッと笑う顔!「私大きくなったわ」という有馬。折しも、空襲警報が鳴る。佐分利は抱き寄せながら「怖くないのかい?」と聞くダブルミーニング。
そして戦後、佐分利は妻子を東京に残して鳥取で田舎暮らしを始めるのだが、有馬はそれを知って、いきなり押しかけるのだ。こゝからが、この映画の画面的な見せ場となる。山並み、山道、斜面の墓地。何ともいい風景だ(ただし中国地方っぽい山並みではないが)。坂道の俯瞰ショットの高低感もいいし、山道を2人で歩くカットの構図(フルショットやロングショット)にも惚れ惚れする。
さて、違和感を覚えた部分も書き留めておくと、回想前に戻った後、エピローグとして、田舎の家の片付けと、村人たちが有馬を見送る場面があるのだが、エンディングは小説としては良い部分なのだろうが、映画だと少々冗長に感じられる。もっと簡潔なエンディングで良かったように思う。
#備忘でその他配役等を記述します。
・冒頭の葬儀場面。佐分利の会社(新聞社)の関係者として、安部徹、河野秋武。また、親戚のおばさんで東山千栄子。
・戦時中の柳橋の置屋の場面で、有馬と一緒に佐分利を迎えるのは水原真知子。
・鳥取の山村の人たちには、浦辺粂子、関千恵子、小田切みき、左時枝、左卜全、中村是好らがいる。左時枝はまだ子供で、調べると、13歳。
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