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[コメント] 棒 Bastoni(2002/日)

AV男優とAV女優の若い夫婦の葛藤が現実的で意外にも丁寧に描かれていて好感が持てる作品。元風俗嬢と付き合ってたことのある僕は、「頭で理解できても、心が理解を拒む」、そんな心情が痛いほどわかって泣けちゃった。。。以下は僕の体験談。
IN4MATION

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







僕と彼女の出会いは渋谷。 金曜日の夕刻、学校帰りにスペイン坂の途中に腰掛けて、通り過ぎるコを物色。物色。 お行儀悪い。

彼女が元デリヘル嬢だなんて、付き合い出すまで全然知らなかったんだ。

話を聞かされてからも、彼女を好きって気持ちには全然変わりなくって。

僕らは、色んなとこが似てた。一番好きだったのは唇の形と横顔の鼻筋。

多分好きすぎて、だから彼女の過去をもっと知りたくて、聞かされたら今度はそれに嫉妬して。

今ならわかる。知らないほうがいいのに、知りたくなる。ホントにバカだったなぁって。

うん、色んなこと訊いたよ。動機や在籍期間、相手にした人数・・・。

過去は過去。

頭では理解できるんだけどね、でも、心が理解を拒んじゃうんだよね。

彼女は生まれつき小児性癲癇を患っててさ、高校出て働きだしてからも時々発作で倒れたことがあって、面接でそのことを正直に話すと終いにはどこも雇ってくれなくなったんだって言ってた。

社会から疎外されて、家にいても両親から小言を言われて、「自分で生きてく」って家を飛び出して風俗に入ったんだって。

「お酒飲めないから、水商売無理だと思ったし」って後で付け足してたっけ。

在籍期間は通算で3年。途中、何度か失踪したり、お店変わったりしたことも聞いた。

根掘り葉掘り尋ねるうちに、彼女は「言いたくない事だってあるわ」って突然キレたんだ。

僕は、ヤなこと訊いてるなって自覚しながらも、色んなことを尋ねすぎた。

何を聞いてもちゃんと答えてくれて、違うところは否定してもらって、それで彼女を信じていこうとしてたんだろうな。

僕は風俗に行った経験なんてなくって。

そんなとこいく必要性とか理由とか当時は全然わかんなかった。

だから、余計に色んなことを想像しちゃうんだって思ってさ、実際にデリヘル嬢を呼んでみたこともあんだよね。

そのコの場合は、「本番しないと暴力的になる人もいて怖いし、自分が疲れてたら本番許すこともあるよ。その方が自分楽だしぃ。」とか言ってた。

あっ、僕、そのコとは本番してないよ。タイプじゃなかったし。

彼女にさ、それとなく聞いてみたんだよね。

そしたら、「そんな法に触れることはしてない」って言ってた。

僕はもちろん信じたよ。逆に、当時は、そのことだけが心の拠り所になってたのかもしんないけど。

彼女とはその後、その話題には触れないようにしてた。

ただ、彼女の過去を知っている人が誰1人いないところに引っ越したいとか、そんなことばっか考えてたんだ。

どうして彼女はそんな過去を僕に話したんだろうな。

むしろ知らない方が良かったとさえ思うんだよね。

僕は頭がおかしくなりかけてて。

自分から逃げたよ。

未練たらたらで別れたから今でも好きなまんま。

何年か後に僕は彼女に再会したんだ。

学生時代に住んでたアパートに届いた手紙が転送されてきたんだ。

僕は、毎年毎年転送届けを出し続けた。あれさ、有効期間1年なんだよね、知ってた?

だから、毎年4月と11月に前の住所とその前の住所に届いた郵便物が転送されるように届けを出すのを習慣にしてたんだ。

何が届くのを期待してたんだろうな。

入院してるって書いてあった。

ケータイから電話して、お見舞いを口実に会いに行ったよ。

少しやつれたけど、顔は昔のまんま。やっぱり好きな顔だ。

「もう、あたしさ、担当の医者が変わんないから、この歳になってもいまだに小児科病棟なんだよね」彼女は言った。

こうも言ってた。

「ホントに来るって思ってなかったから、何にも持ってきてなくって。今朝とか、ニベアのハンドクリームをヘアワックス変わりに使ったよ」って。

「相変わらず綺麗な顔だよなぁ」なんて言ったら、びっくりするような事を聞かされた。

「鼻ね、これ整形なんだよね。あんまり好き好き言うから、あん時言いそびれたけど。ほら、ココ触って。冷たいでしょ、血管通ってないから」って言いながら、彼女は僕のひとさし指を手にとって自分の鼻筋に当ててみせた。

「ホントだ、ちょっと冷たい」

自然と笑顔になった。彼女に触れることができたから。

(別に整形でも元風俗嬢でもいいや、そんなの関係ないよ)

その時は普通にそう思えた。でも、もう言う時期じゃないなって思ったんだ。

そう思えるのは、今付き合ってないからだってことも、同時にわかってたから。

少しだけ大人になったけど、精神的骨格はいまだに幼いまんま。それが僕。

「ホント、器がちっちぇ男だな」

帰り道、そう自分に向かって言ってみたら、少し楽になった。

彼女が亡くなったことを知ったのは、それから1年半後。

だから、僕は今でも彼女に未練たらたらなまんま、彼女の星座占いを読み続けてる。

いい加減呆れるよな? はいはい。おしまい。

で、映画。ラストに彼女が言うんだよ。

この子に父親はいない』って。

そこで涙が止まんなくなった。

この映画、ジャンルとしてはコメディなのに。

やっぱ僕って頭おかしいのかもな。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)sawa:38

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