[コメント] ヴァリエテ(1925/独)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
冒頭の俯瞰からの囚人の半円描く行列からして凄い。静止している耳への超ズームが華麗に決まる。三角関係の発生を示すショットもすごかった。ヤニングスがポーカーで大勝した次のカットで、不倫のふたりが画面の下の方で熱烈にキスをして倒れこんでいくのだ。ポーカー仲間のやっかみは、嫁さんではなく、彼のポーカー勝ちすぎから発生しているらしい物語の運びを採用している。部屋に戻る直前の化粧直しという悪女の仕草の反復。
意外なことに曲芸中に凶行は起きない。まず観客はヤニングスとともに、ミスによる転落の幻覚を見る。そして本番、客席は何か異常に気付いたかのように上を見上げる、という仕草が伝播していく。しかし何も起きない。演者は笑って降りてくる。舞台が終わりヤニングスは後悔する。ナンデヤラナカッタンダ。この後悔する気持ちがとてもよく判るのだ。だから続く殺人はとても自然に受け止められる。この遅延はとても優れた手法だった。
白目剥いた形相への手持ちキャメラのブレとか、倒れて持ち上げたナイフ持つ手だけ捉えるショットとか、サイレント期を代表すると思われるショットが連発されるなか、最高なのはヤニングスが自首せんとアパートの受付を通るとき、背後のガラス扉の向こうの階段に逆さに倒れている妻のマリー・デルシャフト。人間をモノ化してしまうこのショットの恐怖はすごかった。百年後もこの、背景に転がっているホラー的人物というショットは多用されているが、本作がほとんど元祖なんだろう。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。