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[コメント] 昇天峠(1951/メキシコ)

椰子の木。海辺の村の風習が紹介される。新婚の夜、男女が島へ渡る風習だ。主人公は、オリヴェリオ。新妻アルビナと島へ渡っている最中、兄がボートで呼びに来る。母親が危篤だと云う。こんな調子で、提示されたプロット(この例だと島へ渡る風習)が、反故にされていく映画だ。
ゑぎ

 オリヴェリオは母親の遺言書作成に必要な弁護士を連れて来るためにバスに乗って町へ行くことになる。バスには、妖艶なラクェル、議員候補、左足が義足の男、妊婦などがいる。バスは出発直後にパンクする。右前輪のタイヤを取り付ける画面から回転するタイヤにディゾルブで繋ぐ。次に霧の山道で対向車が出現。バックしようとしていると、乗客の妊婦が産気づく。バスの中で無事出産し、出発すると、今度は川を渡る際、前に進まなくなる。といった具合で、なかなか町へは着かない道中が描かれるのだ。

 オリヴェリオの行く手を阻む(?)のは、バスのトラブルだけではない。妖婦ラクェルの誘惑もその一つで、バスが川で立ち往生した際に二人は水浴びをすることになり接近し、その後、バスの中でオリヴェリオは煩悩に苦しむのだ(?)。こゝの妄想シーンが実は全編でもっともぶっ飛んだシーンだろう。長く紐のように剥いたリンゴの皮で二人は繋がっている。バスの中が密林のような美術になっていたり、妻のアルビナを川に投げ込むオリヴェリオ。

 他にもいろいろな出来事があるが、もう割愛する。タイトルの「昇天峠」は、町へ着く道中の最後の、そして最も危険な場所を指しているが、昇天という言葉には、多分、日本語と同じようにスペイン語としてもダブルミーニングがあるのだと思われる。尚、峠を過ぎた道で、棺をバスに乗せるシーンがあるが、その際演奏される音楽が、『ワイルドバンチ』の村人との別れのシーンでかかっていた「ラ・ゴロンドリーナ(つばめ)」だった。この曲は葬送曲でもあると知る。

 上にも書いたが、ぶっ飛び具合としては、オリヴェリオの白日夢のような妄想場面が一番で、その他のプロット展開や演出については、面白く見せ場を繋ぐが、常識的なレベルに思える。バスの乗客たちの会話で、何度も、これだから文明国になれない、というような主旨の発言があったのも、ちょっと政治的なものを感じて気になった。また、ラストの簡潔さは、もうこれ以上描かなくても帰結は分るだろうという前提のものだが、それにしても、もうちょっと描いて、フラストレーションを吹き飛ばしてもいいんじゃないか、とも思うものだ。そういう意味では、奇異な、ある意味シュールなラストだろう。

(評価:★3)

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