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[コメント] イン・ディス・ワールド(2002/英)

圧倒的なまでに過酷な旅。俺はただ呆然と見ているだけしか出来なかった。(←当たり前だ) 2004年2月7日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







日本と言う国に住み、毎日をダラダラと過ごして飯を食って暖かい部屋で寝て、と言う毎日を繰り返す日々。そんな俺が惰性の日々を過ごしている頃、地球の裏側では6500キロ(数字はチラシから)と言う過酷な旅を、希望を求めて強い意志で、騙されながらも、一緒に旅をしてきた友人(親戚だったっけ?)が死にながらも、それでも前に進み続ける16歳の少年の旅に、ひたすら圧倒された。

ロンドンに行って何がある訳でも無いが、難民キャンプに居るよりか遥かに希望がある、と言うだけで、死と隣り合わせの旅を続ける。毎日をダラダラと平和な世界で過ごしている俺には想像も出来ない世界。

この作品はドキュメンタリータッチではあるが、脚本も細かいカット割りも存在する虚構、フィクションの物語である。しかし、描かれるのは、多少過剰に、ドラマティックに描いていたとしても、この世界(in this world)に現実に存在する現状であり、今考えるべき問題。テレビのワイドショーでどれだけ偉そうな評論家が話をしているのを聞いて、現地の悲惨な現状を見て同情して、納得するよりも、この映画一本見てひたすら(フィクションではあるが)現実を目の当たりにして、自分なりに考える方が遥かにためになると思う。

この作品は国際問題を扱っている、と言う点で社会派作品として考えられている様子だけど、主人公の少年の強い意志、と言う所にスポットを当てて欲しい。正直、あそこまで「希望≒夢」に向かって必死に前進する、その主人公の目に俺は感動した。毎日をダラダラ生きるだけの俺。ただ与えられた課題をこなして遊んで、面倒くせぇ、と言いながら、それでも恵まれている社会で生きる俺達。そんな傍らで、過酷な現状に負けずに必死に勉強して英語を覚え、そして希望を追い求めて他国に渡る。その過程で騙されても、相棒が死んでも、一人孤独になってもめげずに冗談を言いながら必死に前に前に進んでいく姿。俺は、俺の周りにそんなに立派な16歳なんて見た事ないよ。そして、自分自身もそう在りたい、と思う。いや、まぁ作品の趣旨とは違うかもしれないけど。

監督はこの作品をコンテナに篭って密入国を図った中国人の話をニュースで見て、作る事を決意したらしい。40時間以上も、狭く暗いコンテナの中に閉じ込められ、死の恐怖と、また別の恐怖(なんつーんだ?どこに行くかわからない、みたいなのとか)を感じながら、発狂(?)したり窒息したりしていく物の叫び声を聞きながら生き延び、それでも必死に金を貯めてロンドンに向かうも、職などある訳も無くただ低賃金で働くだけの現実。

難民をどこに追い返すのだろうか?受け容れずに追い返す、と言う現実。では受け入れた所で彼らに何が待っているのだろうか?それは厳しい現実でしかない。受け容れる、見捨てる。国際社会に於いて存在する選択肢はどちらかしかない。しかし、それらは「難民を」受け容れるか否か、と言う問題であって、彼らは存在していても存在していなくても、難民、弱者でしかない、と言う現実。だから彼らは密入国するしかないのだろうか?いや、勉強不足の俺には良く分からないけど。

しかし、その厳しい現実を覚悟しながらも彼らは亡命を試みる。その過程で何人死のうが、世界の先進国の人間にとっては大した問題ではない。

そんな現実を目の当たりにして、俺は「可哀想」だの「俺も何かしなくては」だの偽善ぶった考えすら思い浮かばず、ただ呆然と眺める事しか出来なかった。

世界は広い。そして、人間が溢れ返っている。難民の居ない世界なんて存在し得ないだろう。そして、彼らは地平線、砂漠、海の向こうに希望を見る。その過程で殺されようと、金を全て盗まれようと、その先に見えるのは希望なのだ。

映画が終わった時、エンドロールの前に流されるテロップがあまりにも痛すぎる。結局彼はイギリスから出なければならない。どうして「難民保護申請」が却下されなければならないのか?それが平等、と言う社会なのか?彼らが見る希望。俺にはそれが余りに痛すぎてたまらない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] プロキオン14[*]

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