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[コメント] 下町の太陽(1963/日)

冒頭、休日のオフィス街で早川を追いかけ気味に歩く倍賞にはミュージカルっぽい軽やかさを感じ期待を抱いたが、川を越え、河川敷での歌唱というお約束(しかもフルコーラス歌わない)を終えると、そこはもう嫌になるほどの山田洋次の世界であった。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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思えば『幸福の黄色いハンカチ』での「銀座カンカン娘」の唐突さなど、山田と音楽とはあまり相性がよくないような印象がある。その意味で早々にそちらとの共存をあきらめ、のちの作品へと続く題材で勝負したのはいかにも彼らしい選択。

確かに下町で暮らす人々の姿のリアルさもよい。特に昼間に何をするということもなく集まっている老人たちの姿は圧巻で、あれがあるから東野が事故にあうシーンでのお見舞いの果物の値を読むところや、人の不幸を笑う姿が許せない倍賞の悩みが生きた。いきなり倍賞がキレて、何事もなかったかのように退散していく群衆の姿もよい。また、下町で生きようとする青年勝呂の風貌には、若き頃の高倉健を思わせるものがあり、彼の思う二枚目というのはやはりこういう顔立ちなのだなと思わせるところも面白い。

しかし、やはり1観客としては、そういう作品もいいかもしれないけれど、当たって砕けろではないが、やはりこの時期の倍賞による歌劇を見たかったという思いが消えない。

劇中には増村保造の『青空娘』を想起するほど魅力的な卓球シーンもあったのに、花やしきのシーンも素晴らしかったのに、30そこそこの歳でありながらそこを選択しないところがやはり彼ということか。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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