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[コメント] 下町の太陽(1963/日)

倍賞千恵子待田京介のピンポンを延々と切り返しで撮る件など山田洋次らしからぬ斬新なアクション。初期にはこんな可能性もあったのだ、なぜ切り捨てたのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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機関車での戯れや花やしきのデートに瑞々しい断片があり、ヌーベルヴァーグとの同時代性を感じさせる。なぜこれらをたっぷり撮って画に語らせないのだろう。多分90分という時間制限のなかで、物語を優先させるフォームをこの頃身に着けてしまったのだろうと思う。残念なことだ。

物語が面白ければそれでもいいのだが、本作は主題の処理が生煮えで恣意的だ。最初の恋人が善人だったら結婚して郊外の団地に移転して、倍賞千恵子は下町の太陽じゃなくなるではないか。郊外の団地を目指す奴がみな気に入らないのなら、最初から付き合わなければいい。彼女の下町への拘りは、後付けの理屈に見えてしまう。問題児の弟の扱いも後半取ってつけたようでよろしくないし、悪役が単なる悪役で終わるのも面白味がないし、東野英治郎も『本日休診』の三國連太郎のような深みに欠ける。

下町は工場地帯と地続きなのだという位置づけは意外で面白く、そういえば戦前の小津や戦後の『煙突の見える場所』などでも、下町の遠景にはたいてい工場があった。工場が海外に行ってしまってただ寂れているばかりの現在の下町とは風景が違っていたのだ。団地の抽選や貴重品である卵の扱いもリアル。いつものように、風俗の丁寧な記録は山田映画の美点のひとつである。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ナム太郎[*]

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