[コメント] 重犯罪特捜班 ザ・セブン・アップス(1973/米)
この映画は『ブリット』『フレンチコネクション』の製作者フィリップ・ダントニが自ら監督した刑事アクションであり、その初心者丸出しの平板な演出でカーチェイス以外はぱっとしない地味な映画になっている。ストーリーが退屈な上に、キャストもロイ・シャイダー以外は地味で魅力に欠け、画面作りも工夫がないので印象に残らず、肝心のセブン・アップスも出し抜かれてばかりでいい所なしの凡作である。しかしダントニがこの映画で目指したのは、ピーター・イェーツやウイリアム・フリードキンに匹敵するような傑作を撮ることではなかった。
彼は『ブリット』と『フレンチコネクション』で既に製作者として成功を収めていたが、その作品の評価は監督ばかりが賞賛され、彼は金を出しただけの製作者にしか見られていなかった。(勝手な憶測)そんな彼が言いたかったのは「あのカーチェイス場面を作ったのはこのオレだ!」という心の叫び。そんなダントニのエゴ剥き出しの意地と執念が、この映画のカーチェイス場面を『ブリット』『フレンチコネクション』に勝るとも劣らない一級品に仕立て上げた。いささか既視感のあるカーチェイスではあるが、それでも前二作と共に映画史に残るくらい素晴らしいカーチェイスをイェーツやフリードキンなしで彼は作り上げたのだ。
こうして彼は『ブリット』『フレンチコネクション』のカーチェイス場面が自分の功績である事を証明した。さらに、敢えてこの映画をカーチェイスだけの凡作にすることで『ブリット』『フレンチコネクション』がいかに傑作であったかを再評価させるという二重の成功を手にしたのだ。そんな彼を突き動かしていたのも「オレはカーチェイスが大好きなんだ!!」というカーチェイスへの愛があったからに他ならない。言わばこの映画はダントニが路上に綴ったラブレターであり、彼はタイヤ痕で映画史に名を刻んだカーチェイスバカなのだ。
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