コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 宵待草(1974/日)

活弁士伝、アナキスト伝、続『恋人たちは濡れた』、高橋洋子の喜劇版『少女ムシェット』。神代印の大正歌謡のもの凄いセレクト集で、細野晴臣の貢献もあるのだろうか、これだけでも価値高かろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







浅草六区の活動写真館のアナキストグループ「ダムダム団」。高岡健二は朝から「教育勅語」読み、『最後の人』ポスター、弁士付きのマキノ、沢田正二郎の『国定忠治』、宵待草唄われる。共産主義の歌をブツブツ唄いながらブルジョアの婦人を押し倒す。

雪山の療養所でビリヤード。ラジオから関東大震災の歌。インポの高岡は馬で自転車のブルジョア嬢高橋洋子を追跡して煽りまくり、連れの荻島真一は首吊り自殺。座敷で高橋の見張り役吉田次昭「勝てば官軍」と剣舞。荻島と同じ布団で寝る岡島。夏八木勲と鍋囲んで「蝶々もトンボも鳥ならば、虱捕るのも狩人か。花のお江戸の吉原で、春を売るのもあきんどか」と謡い、松っちゃんの蝦蟇の弁士。

浜口暗殺の報、右翼に先越されたと嘆き、朝鮮独立運動の連中から手榴弾や鉄砲を調達、生き残ったら大陸へ脱出。問題は金だが右翼の大物浜村淳の孫娘誘拐。それは高橋洋子で、「俺は河原の枯れすすき」と唄いながら決行してふたりは再会する。インポなのに高橋と同衾する高岡。「革命ってのは人を殺すことだ」と黒旗担いでいる。

引き渡しで部下に刀抜かせる浜村は高橋に「国のためじゃ、死んでくれ」。金取って夏八木と三人で逃げて、撮影隊と遭遇「傾向映画の時代は終わったよ。これからは喜劇」。撮影に参加して三人で気球に乗って飛んでエンヤコラセードッコイセと政治歌。追いついたアナキスト斬ってまた三人。

「賽の河原」の小唄。軍隊のサイドカー盗んで軍人姿で銀行強盗。「抵抗すると不逞の輩と見做してただちに射殺する」という無茶でこの件が面白い。高橋洋子の軍人コスプレが素晴らしい。天皇陛下バンザイを三分間行わせる間に逃走。

法事の最中(不思議な御詠歌が詠まれている)の夏八木の田舎に戻り、警察が銀行強盗で山狩りと聞いて、無言で明らかに息子の夏八木を疑う殿山泰司が爆笑もの。一行は山へ逃げ、追ってきた殿山に夏八木「好き勝手に生きているから40、50まで普通の人みたいに生きたら罰が当たる」。ああ、いい科白だなあと思う。

どうでもいいじゃないと繰り返して夏八木と抱き合う高橋。しかし高岡とふたりきりになると抱いてと云ったりする。きれいな雪山。「大陸へ行くか」アナキストの実行を新聞で読む夏八木。「民権論者の涙の玉で磨き上げたる大和魂(だま)」と謡う。「蝶々もトンボも鳥ならば」唄ってインポ治る高岡。

海望む小雪舞う駅舎、線路での三人の連続でんぐり返り。『少女ムシェット』の喜劇版の趣がある。夏八木は満州、高岡は刺され、高橋は海岸でひとりでんぐり返りを繰り返す。無茶苦茶をやり通しで最後にでんぐり返りで済ませてしまうとはどういうことなのだろう。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。