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[コメント] 暗黒街の顔役(1932/米)

画期的と言われただけあります。当時の映画人はきっと驚喜したことでしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は新しい時代を作り出したと言うだけあって画期的な演出に溢れ、今の目で観てさえ新しさを感じられるほど。既にソ連では確立されていたモンタージュ技法を始めとして、空間を用いたダイナミズム、悪のキャラを悪のまま格好良く見せる方法など。つまり、これは本当に新しい技術を使ったのではなく、それまでにもあった技術を上手く組み合わせたものなのだが、そのセンスの良さは確かに凄いものがあった。当時の最高技術を越えようとした野心的な演出が冴えている。

 大分前になるが、デ・パルマの『スカーフェイス』(1983)観たとき、あの暴力表現と物語のソリッドさにおおきく刺激を受けたが、そのオリジナルである本作もそれに劣るものではない。いや、むしろ時代性というものを併せて考えるならば、公開時に観客と映画界に与えた影響はとんでもないものだっただろうと推測出来る。

 映画でここまでの表現が出来るのか?と言うより、「ここまでやって良いのか!」と言う映画人の喜びの声が聞こえてきそうだ。

 単体の物語として素晴らしいのみならず、映画の表現の幅をここまで広げることが出来たことで、ハリウッド映画史においても非情に重要な位置を持つ。はっきり言ってしまえば「格が違う」。

 本作の主人公トニーの生き方は申し分なく格好良い。後ろ盾が何もなく、ただ野望だけしかないトニーは、度胸と腕っ節だけを頼りに最短距離で頂点まで上り詰める。勿論こう言う生き方が行き着くところは破滅しか無いのだが、それも含め、「太く短く」生ききった男の姿がここにある。それらを数々の映像技術によって加速させて描いた技法は感嘆できる。

 ラストシーン、崩れ落ちるトニーが最後に観たものが“World is Yours”という有名なシーンもこれ以上ない皮肉っぷりで、印象に残る。

 以降派手好みになってしまったハワード演出も、本作では抑えも利いていて、派手さと緻密さを併せ持った上等な演出っぷりを魅せており、本当に楽しい作品に仕上がってる。

 ピカレスクアクションの古典と言うだけでなく、今の目でこそ再評価して欲しい作品の一本である。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus ジェリー[*] りかちゅ[*]

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