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[コメント] 美しい夏キリシマ(2003/日)

人間がどんな行いをしていても、自然はただそこに佇んでいる。それをどう思うかは人間側の勝手な理屈なのでしょうが、ここに切り取られる自然の美しさは残酷な美しさに見えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 銃後の生活を描いた作品で、気持ちは最前線。しかし体は小さな田舎に押し込められ、やるせない気持ちで一杯の少年の青春物語として描かれている。なんでもこれは黒木監督自身の体験を元にしているとのことで、なるほど、だからこんなにリアリティがあるのか。と思わされる。

 ちょっと前まで日本で戦争映画を描く場合、「戦争の悲惨さ」ばかりが強調されて、その中にある青春も“軍によって抑圧された”ものとしか描かれなかったものだが、実際には人間はどんな時代でもそう変わるものではない。中学生は格好良いものに憧れるし、初恋にドキドキする。盗み見を暗い趣味にしたりするし、こっそり自慰も行う。こういう当たり前の青春は「なかったもの」として扱われることに常々不満を持っていた訳だが、偶然観た本作が、私の認識を大きく変えさせてくれた。ようやくこういう作品が作られるようになったか!と言う喜びというか、やっと邦画は次のステップへと向かうことが出来るんだ。という安堵感をもたらしてくれた。

 確かに本作でも戦争によって悲惨な状態になっている人間や家族の描写はあるし、そう言う描写を回避するのではないが、その中でも普通の生活があったんだよ。と言う当たり前の事実が描かれていると言うところに特徴がある。特にこういう特殊な状況の中にある日常描写というのは、実は私は体がゾクゾクしてくるくらいに好き(何度か書いていると思うけど、日常描写を丁寧に描いているSFが大好きなのはこれが理由)。本当に大好きなものをこれだけ丁寧に描いてくれただけでも嬉しい。戦争とは縁遠いはずの日常生活が、しっかり戦争と結びついている事がはっきりと分かってくる。

 ここで描かれる“戦争の悲惨さ”とは、突然断ち切られてしまう日常なのだが、情報が制限された片田舎だけに、あるものは自暴自棄になり、あるものは自分の殻に閉じこもる。そんな混乱の中、純粋さ故に思い詰め、自分を見失っていく主人公の少年。ここでの描き方の面白さとは、日常の方がむしろ閉塞状態にあり、どこかでその閉塞感を解放してくれる戦争を願っている部分がある。と言うところだろう。

 戦争描写を一本調子ではなくすることによって、余計はっきりと反戦へと向かわせる描写。これこそが本当に私が観たかった戦争映画だよ。

 本作を観たのはテレビでだったが、この瑞々しい演出に、観ている間はてっきり中堅所の監督か?と思ってたのだが、いざ調べてみたらヴェテランの黒木監督と知ってびっくり。これまでこんな素晴らしい演出が出来る人とは全く思ってなかった。改めて死が悼まれる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] 水那岐[*]

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