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[コメント] 獣人(1938/仏)

恋愛向きの?男に見えるジャン・ギャバンの突如の変貌―映画内では病気と処理される―が、やっぱりわからないのだが、
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 男が二人がかりで一人の女を殺してしまう話と見える。まずは精神的に、終いには肉体的に。皮肉なのは、一度は男に精神的な生を与えられておきながら、それを失い、かつもう一度精神の再生を決意したところで、肉体的に命を奪われてしまうことだ。殺した男の方には、人間性の中に潜む獣性みたいな病気があったとして処理されていたが、要は映画として、不貞を働いた女に死という罰を与えたことにほかならない。私は、ランチエ(ギャバン)は、まず夫を(今度こそ)殺してから、次ぎにセブリーヌ(シモーヌ・シモン)を殺すのではないかと思っていたので、妻だけが殺されたことにこの映画の力点を見た気がしたのだが。

 いずれにしてもルノワールさんは、高度な人物造形を、エピソードを重ねて紡いでいくのが上手い。権力におもねらない愚直な者と描いた駅員の人物像を、裏で有力者に手を回して身の保全を図るという、庶民的なしたたかさの範囲で展開する。かと思うと一足飛びに妻を怒鳴りつけ手を上げる暴力夫に発展するのだ。そして紡ぎ出された人物像によって、この先彼らがどう行動するのかというサスペンスを形成していく。若干、つなぎ的なエピソードがのんびりしていて時代的なスピード感(の遅さ)を感じるところがあるが、総じて物語から目が離せないのである。

 もっともただ観客の意外性を狙っただけととれなくもない。この女は、殺されなきゃいけないほどの悪いことはしていない。いや正確に言えば、夫やランチエほどには悪いことをしていない。結果として、女への支配欲をうまく実現できない男どものルサンチマンが発露したような作品になっている。

80/100(08/10/19見)

(評価:★4)

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