[コメント] 史上最大の作戦(1962/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
第二次世界大戦における連合国の勝利を確定したというノルマンディ上陸作戦を描いた作品。第二次世界大戦においては最も印象的な、そして最も派手な戦闘だったため、ある意味において、戦争物の映画を作る際には、その一部だけでも良いから、これを作るのは一種の夢であろう。
それを全体を俯瞰して可能な限り事実に即して作ろうと言うだけで、膨大な金と労力が必要となるが、それをやってしまったとは、とんでもないことをしたもんだ。ただでさえ金食う作品なのに、アメリカ、イギリス、ドイツをそれぞれ監督を変えて、更に42人もの国際スターに、1万人のエキストラ、48人のテクニカル・アドバイザーを用いたという。その苦労に頭を下げっぱなしと言った感じだ。
これを製作したのは20世紀FOXだが、実はこの時、深刻な経営難に陥りかけていた。20世紀FOXは巨大映画製作会社とはいえ、ハリウッドの中では新興勢力だったし、コロンビア、MGMと言ったライバル会社が次々とヒット作を出していく中、ヒット作に恵まれず、どうしても低迷していた。それでFOXの社長スパイロス=クラークスは起死回生に立て続けに二つの大プロジェクトを発表した。一つ目がクラークス入魂の『クレオパトラ』(1963)で、もう一本はクラークスの片腕で、名物プロデューサーと名高いダリル=F=ザナックの肝いりで作られた本作だった。二本の歴史大作はFOXの屋台骨そのものまで危機に陥れたそうだ(これでクラークスは退かざるを得なくなり、ザナックが社長に就任したと言う交代劇もあり)。それで『クレオパトラ』はおおコケ。もし本作がヒットしなかったら、恐らく20世紀FOXそのものが潰れていただろうと言われている。結果的に本作は大ヒットを記録。FOXは経営危機をなんとか乗り越えることができた。20世紀FOXがいまもちゃんと存在しているのは、本作の功績によるものである。
ザナックが社長就任をOKしたのは、どれほど経営危機になろうとも、この作品だけは作り上げようと言う執念からだそうで、本作を作り上げた三人の監督よりもむしろ彼の活躍の方が目立ってしまったくらい。事実ザナックはロケ地をヘリコプターで飛び回り、細かく指導を与えたとか。ザナック自身こんな言葉を残している。「これは私の映画だ。人が名誉を得ようと思うなら、同時に責任も負わなくてはいけない」。大博打でベット(掛札)したのは20世紀FOXという大会社だったと言う豪毅な話だった。
しかし、それだけのことはある。この作品は確かに凄い。3時間という長丁場をまるで感じさせず、ひたすら画面にのめり込ませるだけのパワーを持っている。
そのパワーの一つにはリアリティと言うのがある。
映画におけるリアリティというのは二つの方向性があると私は思っている。一つはドキュメンタリーのような、いわゆる“生”のリアリティであり、もう一つは全く逆に、舞台劇のように制限された情報の中で決められた動きの範囲内で様式美としてのリアリティである。映画にとって重要なのはそのどちらかの匙加減だと思われる。かつての映画は後者を偏重してきたが、1960年代に入り、前者の比重が少しずつ増してきたように思えるが、本作はその代表作のようなもの。限定された空間で物語が進行する場合、後者のリアリティは演出がしやすいが、本作のように広がりを持ったもの、しかも撮り直しが効き難い特撮などがある場合はどうしても前者に偏らざるを得ない。しかも本作は実際にあったことの再現を目指したのだから、徹底したリアリティが求められてもいた。
本作はそう言う意味では当時最高技術で作られた“生”に近い映像作品だったが、もう一つ重要な要素をここに加えている。それはつまり当時戦った人からの事細かなインタビューを下敷きにしたと言うこと。
映画の中では一見ストーリーには不必要というか、無駄に見えるシーンが散見できる。例えば先遣隊の海兵隊がドイツ軍とすれ違う際、爆発が遠くで起こってそちらに見とれていたらドイツ軍に気づかれずにすれ違うとか、ギッコンギッコンというバッタの音とライフルに銃弾装填する音を聞き間違えるとか、戦闘の真っ最中にシスター達が歩いてくるとか。それらは実際にあったことなのだろう(確認してないけど)。だからこそ、物語の大筋とは関わらないところで、その緊張感を増すスパイス的な意味で用いられることになる。
物語を大切とする一本の映画としてみるのならば、観てる側の意識が散漫になるため、これは実はあまり賢いやり方ではない。だが、戦争とは同時多発的に起こっていると言うことを示すためにはたいへん効果的に使われているし、又、リアリティも極めて高くできる(繰り返すが、このリアリティは技巧的なものではなく、「生」に関わるもの)。
これらの同時多発的な事件を追うために、アメリカ、イギリス、ドイツ側の三面で、三人の監督によって本作は作られることとなった。敵であるドイツ側を重視した作りとなっているのも大きな特徴で、攻める側と攻められる側がどちらも血の通った人間であり、その中で怖れや、それを突き抜けたあきらめの中に「こうなったら死ぬまでやってやる!」というやけくそじみた勇気もかいま見せてくれる(ノルマンディにはドイツもあまり兵力をおかなかったのだから、上陸する英米連合軍を見た時のドイツ兵の驚きと、その上で、自分が死ぬまで何人殺してやれるかと思わせる表情が見事だった)。
これだけ同時多発的な事件を追っているのだから、クライマックスの連発と言った方が良いけど、圧巻は市街戦の描写。俯瞰で戦いの趨勢を撮りきった長回しのパンには溜息が出る(俗に言う“イントレ”というやつ)。よくぞここまでやってくれた!戦争映画と言うより、まるで芸術的なカメラ・ワークだった。
数多くの名優をほとんどちょい役の如く使いまくり、怒濤の如き流れを演出してくれた本作は、最高点しか考えられず。勿論最後の主題歌“The Longest Day”も最高!
ところで、本作のDVDにはおまけにメイキング・フィルムが封入されていたが、これはメイキングじゃなくて、ザナックの自慢話だった。よほどザナックは本作に誇りを持っていたのだろう。確かに誇って良いだけの作品だ…一々それが自慢になってるのがやや鬱陶しいが(笑)
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