[コメント] ダコタ荒原(1945/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ジョセフ・ケインという人の映画を私はこれしか見たことがないのだけれども、どうやらこの演出家は「破壊」に取り憑かれていた節がある。ともあれそれはすこぶる映画にふさわしいことなのだが、たとえば馬車の転倒するカットが序盤と終盤にそれぞれ一回ずつあって、特に終盤での荷をぶちまけての転倒ぶりは特筆に値するだろう。船長ブレナン自らによる蒸気船の大爆破もたまげる。炎に包まれた家屋セットの梁か何かが(画面外上部から)「燃え落ちてくる」というのも単なるルーティン・ワークからは生まれない演出だ。あるいは、放火に遭ったという農場主の家の残骸ぶりも普通ではない(加えて、そこに農場主夫人オリーヴ・ブレイクニーをちょこんと座らせてしまうのだから!)。終盤の麦畑の大火および銃撃戦シーンでは画面が炎・黒煙・硝煙にまみれ、もはや誰が誰を攻撃しているのかも判然とせずカオティック。
「見せない」演出についても言及しておこう。中盤ヴェラ・ラルストンが撃たれ、ウェインも殴られてしまうシーン。ウェインが倒れこんだ瞬間に、つまりふたりの安否を見せないままに、シーンはブレナンのコメディ演技のそれに切り替わる。そしてそこにふらふらのウェインが登場する。実に切れのいい場面転換だ。終盤のウェインの取っ組み合いシーンも、暗闇となっている画面左端の床にもつれあわせるなどして、決着の瞬間の仔細を見せない。そして光の当たっている画面中央にウェインが起き上がってきてはじめて彼が勝利したことが分かる。また、ここに限らず全編を通じて暗闇を大事にした照明設計が行われており、すばらしい。
さらに結末部。ラルストンに向かって吐くウェインの文句をブレナンの汽笛でかき消して「聞かせない」というのも頼もしい映画感覚であり、楽しいオチだ。
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