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[コメント] 流転の王妃(1960/日)

昭和32年天城山と出る。京マチ子が、若い女性の顔に布をかける場面。短いアバンタイトルだ。
ゑぎ

 タイトルインの後、銀杏の木をクレーンで下降し、兵士たちの行進を見せる。一気に20年ぐらい時間が遡ったということだ。軍靴の向こうに、歩く京マチ子を捉え続ける横移動ショット。もう冒頭から画面造型は堂々としている。

 序盤の演出も調子がいい。お祖母さんの東山千栄子が孫の京の部屋を訪ねるシーン。部屋の中からのショットで、東山の背後の部屋外に京が突然現れる、という奇異な演出を見せる。これって、田中絹代の不慣れな演出と云うより、私にはこの人の突出したセンスのように感じられる。あるいは、満州国皇帝の弟との縁談が持ち上がって伝えられたシーンでは、東山は「私を捨てて満州なんかに行かないで」と泣くのだが、いざ顔合わせ(見合い)が行われて、溥哲(溥傑)−船越英二の品の良さに触れると、東山も含めて、皆がこんないい縁談は無いみたいな会話をするという、手のひら返しの描き方も面白い。

 あと、大宮様と呼ばれる貞明皇后(大正天皇の皇后)を三宅邦子が演じており、京マチ子が満州へ行く前に拝謁する場面があるのだが、こゝの窓外の書割の美術のシュールさといい、三宅と京のセリフ回しといい、非常に見ごたえのある、印象に残る画面作りだと思った。このシーンで京は三宅から、白雲木の種をもらう。

 そして、あっという間に満州(新京)のシーンとなる繋ぎの簡潔さもいい。中盤以降(最終盤まで)はずっと中国大陸が舞台だ。京と船越は夫婦仲も良く、一人娘(英生)も産まれる。庭の変貌(杏子の木など)や子供の成長を使って時間経過を表現するが、これもあっという間に数年が過ぎる。娘の寝室で親子3人で唄う場面から、京劇のような出し物の歌へ繋ぐマッチカットがあり、皇帝主催のパーティ場面に転換される繋ぎには驚いた。京が、皇帝溥文(溥儀)から、やっと信頼していると云ってもらえるシーンだ。今までは関東軍のスパイかと思っていた、と云われるのだ。また、皇帝の后−金田一敦子は、たまにおかしくなる、美しい人形だ、という科白もある。こゝは、京マチ子にとって、皇帝と皇后を支えたいと強く意識付けられる重要なシーンと云えるだろう。

 と云うワケで、ソ連の侵攻と日本の敗戦、満州国の解体、八路軍の襲撃と連行、通化事件に巻き込まれる、などといった流転の場面が続くのだ。この中で、船越がピストル自殺しようとするのを京が止める場面がいい。二人とも床に倒れて揉みあうという横臥の演出だ。また、多くの場面を通じて、自分が皇后を守る、という京マチ子の強い意志がよく感じられる造型で一貫して描かれており、感慨深い。しかし、何と云っても、荒野を歩く場面のタイヘンさがよく出ているし、美しいロングショットの画面造型に感動する。

 終盤の戦後のシーンで、子役の娘(英生)から高校生ぐらいの娘−高野通子にマッチカットで繋ぐ演出もあり、この娘に焦点があたりかけるのだが、アバンタイトルの状況へ至る顛末が、ほとんど描かれないのは、やはりとても物足りなく感じてしまうのは否めない。収容所に収監されている船越や、その敷地を歩く彼を見せるショットも肌理細かだし、最後まで堂々たる演出なだけに惜しい。ラストカットは、冒頭の銀杏の木に呼応するように、庭の白雲木を上昇移動して白い花を見せ暗転する。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・京マチ子は嵯峨浩の役だが、菅原竜子と変更されている。登場人物は皆、仮名。

・京の母親は沢村貞子。父親は南部彰三。伯父、伯母だろうか、吉井莞象平井岐代子が、近い親族で出ている。

・縁談を持って来る陸軍大将は三津田健。関東軍の担当将校で石黒達也

・侍女として八潮悠子水戸光子が目立つが、水戸は満州でもずっと同行。満州の場面での日本人の爺や(岡部)に宮島健一。中国人乳母役で出雲八重子

・終盤、英生の学校の同級生で、江波杏子が目立つ位置に映る。科白なしだが。

・多くの映画サイトで、笠智衆(木下画伯)が記載されているが、出ていない。

(評価:★3)

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