[コメント] 春琴抄 お琴と佐助(1935/日)
この倒錯性が映画的ということもあるのだろうが、本作も素晴らしい出来栄えだ。田中絹代のような笑顔の目立つ、普段は表情のよく動く女優がやるからこそ、本作の、気難し屋で一切笑わないヒロイン・お琴が一層引き立っている。
冒頭のお琴登場場面は、なかなか画面に出さない演出、すなわち、最初は声だけ聞かせ、次に手、草履を履く足、と順に見せていく。対して、ぼんぼんの斎藤達雄とその腰巾着の坂本武は、2人歩く横移動カットを唐突に挿入する。こういった細かな演出・カッティングが凝っている。他にも、マッチカットで時間経過を表現する繋ぎが3回出て来る。有馬のシーンで昼間の桜から、夜桜へ。あるいは、異なる家屋の、障子の開閉を繋いで時空をジャンプする繋ぎ、そして、終盤の雲雀の鳥籠で昼夜を繋ぐカッティング。
さて、本作のお琴の従者、佐助は高田浩吉が演じており、これも一世一代の好演と云っても過言ではないと思う。また、プロットの白眉はどうしたって最終盤の佐助の振る舞いとお琴とのやりとりが示す変態的な帰結なのだが、私が一番気に入った部分は、前半の有馬のシーケンスだ。こゝも妊娠と分娩を世間に隠すため、という複雑な状況に基づいているのだが、母の葛城文子と田中お琴が、2人、堤を歩くシーンが美しい。桜の木が満開で、花びらが舞う。「父親は佐助か?」「いいえ、なんで丁稚風情に、わてが」というやりとり。オフで空の高いところに雲雀の鳴き声。それを聞いている、お琴の顔が少し上を向くのに合わせて、カメラが斜め上へパンニングするのだが、そこに空を飛ぶ小さな雲雀がフレームインするのだ。凄い!どうやって撮ったのだろう。奇蹟のようなカットだ。
#allcinemaなど、多くの映画サイトで、出演者に「飯田蝶子 お君」との記載があるが、飯田蝶子は出演していない。お君役は、松井潤子だろう。
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