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[コメント] 雀(1926/米)

敬虔による救済の強調が実に力強い。キリスト教なしに人が救われることなどあり得ないように思われてくるほどだ。「あなたがたの髪の毛までも一本残らず数えられている。だから恐れるな」。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作の愉しさの大半は「底無し沼」が受け持っている。画面までもが湿気ているかのようだ。【メアリー・ピックフォードを「もう沼に沈めようか」「そのペースじゃ沼が持たない」みたいなブラックユーモア。息子が沈みかけて牛使って助けるサスペンス。

そして後半の脱出の綱渡り。鰐がじゃぶじゃぶいる沼、樹の太い横枝伝って上空を渡ろうとするが樹がどんどん下がっていく、という件は最高のサスペンスだが、この沼は底無しではなくなる(鰐がいるから)訳で、これはおかしいのではないのだろうか。どうでもいいことかも知れんが。

本作はキリスト教が全面に出ている。メアリーは聖書の文言でもって子たちを勇気づける。亡くなった子は神の幻視でもって葬られる(小屋の半面に天井画が現れるこの件は美しい)。最後は脱出の成功が神の慈悲だと感謝の祈りを捧げている。

こういうタッチは確かに昔のディズニー風であり(最近は知らない)、本作は淀長さん(劇場パンフ)によればディズニーに影響を与えたらしいが、子供と宗教という面からも頷かされる処がある。冒頭「南部の沼だけが神から見放されていた」というフレーズは南部批判だっただろうか。

メアリー・ピックフォードのガニ股ダンスや犀のような頭突きなどはチャップリンからの影響大なんだろう。34歳で十代の役処は、十七歳で小学生を演じた西村知美(『ドン松五郎』)とどちらが難役だっただろうか。

いい作品だが、金持ちに赤ん坊の世話の実績により同居を迫る収束はコンサバチックで好きになれない。これは蛇足だった。冒頭の凧で飛ばす救援の手紙は本邦の気球爆弾を想起させられる。木の扉から多数の手が振られるショットはホラーがかっている。劇伴はとてもよかった。

読まれる聖書は以下の通り。「二羽の雀が一アサリオンで売られている。だがその一羽さえ、あなたがたの父のお許しがなければ地に落ちることはない。あなたがたの髪の毛までも一本残らず数えられている。だから恐れるな」(マタイ福音書10章29-31節)

(評価:★4)

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