[コメント] キートンの探偵学入門(1924/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画初期の作品を観ていて面白いと思うのは、作り手があの手この手でおもしろさを追求している姿勢が見えること。特撮技術は稚拙だし、ストーリーも他愛のないものだが、その中で観客を笑わせてやろう、びっくりさせてやろう。と言う思いが溢れていて、それをストレートに「どうだ!」と出されると、そのまま受け取って笑ってしまう。なんか受け取り側を素直にさせてしまう何かがあるみたいに思える。
この一つの理由としては、作り手と観客の距離がとても近かったと言うこともあるのだろう。幾重にもシステムを通して監督の意図を読み取るよりも、監督が作りたかったものをそのまま受け取ればいいこの当時の作品は、やっぱり観ていて楽しいものだ。 本作を劇場で観て、大笑いしながらふとそんなことを考えた。
そんな意味で本作は初期の映画の楽しさが詰まったもので、あり得ない話の展開や、カメラを使ったどっきり的要素、オーバーアクションのキートンの姿。ここには確かに観客を楽しませてやろうという、作り手そのものの思いが詰まってるように思える。 本作が作られてから一世紀近くが経過し、もはやこの作品に関わった人達は故人になってるだろうが、そんな当時の思いまで伝わってくる気がする。
本作は当時としては面白い多層構造を取っていて、映写技師としてのキートンと、その後の恋人と会いに行くキートンが本当に同一人物なのか?と言うところが最後まで分からないように出来ている。更にこれらが全て映画の中の出来事だったとして、映写技師をしているキートンは自分がどのような存在なのか?と言う事を考えるメタ構造を取っている。タマネギの皮のようなもので、剥いて剥いて、その中に何も見えなくなってしまうなんてのは、以降の映画の中でもかなり高度な物語なので、メタフィクションの先取りとして記憶しておくべき名作と言えよう。
更に深く考えてみると、アメリカの上昇志向を皮肉に捉えているとも考えられるだろう。 もちろんそんな面倒なことを考えなくても、目の前に出されたものを楽しむだけでも充分面白い。
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