コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ペイチェック 消された記憶(2003/米)

私にも、ヴィジョンが見えた!!→
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 戎(えびす)橋のたもとの喫茶店。男が女に向かって言った「俺のファンのチームを言ってみろ」。

 「阪神よ」

 そして二人で道頓堀川に飛び込むというヴィジョンを…

 …駄目?

−−−−−−−−−−−−−−−−−−閑話休題−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ディックの原作にウー監督という組み合わせで製作された本作。期待半分失望に終わること覚悟半分で観に行った。

 その結果は、期待以上に良い出来の部分と、酷い部分とが混在した作品と言うのが正直な感想。

 悪い点を挙げれば、それこそ山のようにある。特に設定面のボロボロさは無惨そのもので、改めてSFの描き方の難しさというものを示していた。言い連ねると、それこそ山のようにあるけど、あの未来を覗き込む機械のいかがわしさは群を抜いてる。時や場所ってのをどうやって特定するのか、どう言う視点で未来が覗けるのかが全く説明されてないのが一番の問題だが、未来の映像が何故かみんなカメラ目線になってるのはどういう理屈だ?(笑)。ストーリー展開のご都合主義は、設定上仕方ないにせよ、未来を変える方向性の説明も無し。そこの演出こそが本来この映画をSFたらしめる重要な点のはずなんだが。

 …つまり、本作をSF映画として観る限りにおいては、どうしようもない作品と言って良い。ただ、別段本作だけがそうだと言うつもりはないし、むしろSF作品の大部分はこの程度の出来だから、怒る必要はないだろ。

 むしろ、この作品をSFだと思わなければ良いんだ。香港仕込みのアクション作品に、ハリウッド的なスピーディ展開がミックスされた作品だと割り切って観ると、実はかなり面白い。そう言う視点に立ってみると、あのご都合主義の物語は、中だるみさせることなく次々と新しい展開が待っているって事になるので、むしろ歓迎すべきだし、要所要所で展開されるアクションシーンが実に楽しい。スローモーションや危機一髪の回避などいつものウー監督作品で多用されてる演出が控えめなので、監督らしくない部分もあるけど、今回ガラスを用いた演出はかなり巧かったように思うよ。特にウマがバンッと強化ガラスに手を叩きつけた時に手に付いた血がガラスにへばりつく部分とか、最後に落下して、べたっとガラスに顔押しつけて絶命する社長の顔なんか、非常に上手い演出だと思った。

 アクションシーンに関しては他のSF作品と較べてもはるかに良質。この作品を観ていて、同じディック原作の『トータル・リコール』(1990)との関連性なども感じたし(演出の共通部分多し)、展開上は『マイノリティ・レポート』(2002)に近いものもあるのだが、ここでのアクションシーンは完全に群を抜いてる。これは、アクション部分において下手な小細工をせず、生の演技を強調したためだと思われる。最初のアフレックの棒術の訓練の成果がちゃんと後で出てたし、一体これのどこがSFなの?と思えるカー・アクションも見応えあり。でも、結局それが良かったんだと思う。SF作品だと、SFっぽい演出でアクションシーンを演出しようとする結果、目が別の方に行ってしまい、肝心のアクション部分に嘘くささしか感じない場合が多いが、これは本当に生だったため、純粋にウー監督の演出を楽しめた。

 キャラクターに関しても上手い配役だった。私に言わせれば、アフレックは“マッチョなインテリ”役が一番似合ってると思うし、本作はまさにそのまんま。ウー監督、よく分かっていらっしゃる。それに極めてSF映画と相性の良いウマ=サーマンが絡むのは嬉しいところ。難点があるとすれば、この二人、恋人の相性悪そうだなって事くらい(笑)。悪役は悪役らしく、刑事は刑事らしく(融通が利かない頑固さがあるが、基本的に人が良く騙されやすい)、ステロタイプにしてくれたのも良い結果を生んだと思う。新しい発見こそ無いけど、手堅い作りだよ。

 ラストは嫌味な蛇足のような気もするけど、最後まで概ね好意的に見られた作品だった。実際一度も時計を見ることなく終わらせてくれてただけで充分だ。

 SF作品としてみると★2、アクション作品としてみると★4。間取って★3とさせていただく。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus あき♪[*] 茅ヶ崎まゆ子[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。