[コメント] 3−4X10月(1990/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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誰の人生でも人生は悲劇であり喜劇を孕んだもので、世間には一切の特別控除も特別優遇処置も存在しないということが、身に染みて分かった男の成せる技ではないだろうか。学生時代、数学の全国模試で2位を奪った北野武の計算から導き出され、北野武が紙面等で発表した「“暴力=笑い”理論」と、後年になって生まれる「振り子理論」(片方に大きくふれれば、もう片方にも大きくふれる。北野武の人生観を表した有名な理論。)が混じり合った作品であり、これぞ北野武イズムの血の塊だと言って異論はないだろう。何たってイズムが爆発してる。
また『その男、狂暴につき』で深作欣二を越え、この作品では溝口健二を歴史から抹殺させるかのような超広角レンズで、長回し@箱庭的スナックを披露する。テンポの良い計算し尽くされたカメラワークと演者の動く仕草と物語性は、溝口健二をリスペクトではなく、溝口健二を喰って邦画界を支えてやろうという意気込みが感じられた。北野武が存命の限り、邦画と映画人の先輩が残した遺産、人類の財産は灰にはならない。
……んー、どうも何回脳の中で反芻しても内容は昭和61年12月9日に起きた“フライデー襲撃事件”を思い起こさせる作りであり、何かしらのメッセージfrom北野武を感じ捕ってしまう。その一部は、雑誌媒体やワイドショーの公人を武器に執拗な取材と言葉責めに対する怒りが乾ききっていないことを、この作品が示しているかのようであり、たけし軍団の絆を確かめるかのようでもある。
ここからは少し蛇足だが、見事に大所帯たけし軍団の絆は確認され、この映画の翌年1991年に阪神タイガースに“野球”で勝利し、次の年の1992年には千葉ロッテマリーンズに勝利した。この絆は一重に北野武のオーラといえるのではないだろうか。この映画は、その後に続く北野武の人生を映し出しているのだ。
[まとめ]
物語がすばらしくて役者さんの演出は面白くて、時に登場人物の不幸に対して大爆笑したりした。暴力が笑いにつながることと、暴力と笑いが切っても切れない縁という抽象的関係を映像化した芸人魂は、底が知れぬ人類未到の境地を歩んでいると思うし、この作品とその前、その後の作品を見れば思わないでどうするって感じ。それを見られて楽しく苦い体験をしてしまえた今は幸せです。
2003/1/21
いやぁ〜凄いの見ちゃったよ…。
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