ドラマの発端としての設定、展開の可能性を見せる構成の配置は上々であるが、いかんせんその期待以上のものをギャグのインパクトで乗り越えることができなかった残念な作品である。思うにキートンが案じた悲劇的な仕掛にそのギャップで拡げようとする喜劇的側面が、キートンが思う以上に、そのストーンフェイスもあってか、また自殺がかかるというショッキングな前提が、喜劇そのものよりドラマ性に対する答えを要求されてしまう分、的が外れた恰好となって喜劇としては成功しなかったようである。しかし、この唯一無二の劇的な空間を生むことのバスター・キートンその人の存在感は、やはり映画的な相貌をたたえて数多のフォロワーワークを予感させる立ち居ぶるまいはひときわ輝いている。単なるギャグコメディも、ペーソスドラマを潜在的に孕んでいることの奥行。チャップリンとは違う意味でのアンビバレンツな抒情はひじょうに豊かである。