[コメント] エレファント(2003/米)
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かなり変わった語り口の映画である。同じ場面が視る角度を変えながら何度もトレースされる。カメラはいつも誰かの視線に寄り添って撮り、そのピントの深度は極端に浅い。誰のものとも知れないざわめきが遠くから響いてくる。…この恐ろしく奥行きを欠いた語り口が、校内の人間関係をゆっくりと浮かび上がらせる。深い亀裂と無関心、そして全体性の欠如を浮上させる。
二人の生徒が妄想に憑り付かれる。孤立した場所でそれはたちまち膨れ上がる。ネットの通販で銃を買う。高性能の大量殺傷兵器があっさりと手に入る。その容易さに、無関心と全体性の欠如が学校だけではなく、社会全体を侵食していることが暗示される。重武装の二人が学校に乗り込んだ時、この分断された世界は一瞬にして崩壊する。
カタストロフィーの到来と邪悪の誕生を描いたこの映画からは、ガス・ヴァン・サントの恐怖心が生々しく伝わってくる。核心の周囲をぐるぐる回るようなためらいがちの語り口にも、その脅えははっきりと表れている。なんということもない高校生を怪物に育ててしまう無慈悲な社会。それがアメリカなのか?「象」を失った社会とは滅びの姿なのではないのか?バラバラになった破片から元の世界は復元できるのだろうか?アメリカは越えてはいけない一線を越えてしまったのではないか?晩秋の高い空を満たす透き通った空気を冷たい予感が漂う。これはかなり不穏な映画である。終末の予感がここにはある。ヴァン・サントは望んでそうしたわけではないだろうが、はっきりとアメリカの黄昏を予見している。
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