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[コメント] きょうのできごと(2003/日)

なんでもない日常の煌めきを、実はきめ細かな工夫と表現力を駆使していながら、シンプルに淡々と描いてみせた、まさしく「柴崎友香さんの小説を、映画として表現する」ことに成功した作品。
パッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







■柴崎友香さんの小説を映画化する!?

柴崎さんは、目に映る、耳に聞こえる、肌に感じる事象を刻々と変化させながら独特の会話を緻密に絡ませ、登場人物の心情の移ろいや曖昧だが気持ちが動いている感覚を表現する、その表現力は天才的で、特別な才能を持った作家さんだと思う。

この独特の文学的な手法を映画としてどう表現するのか。

■「カメラワーク」「光」「テレビ」と「ヤイコの音楽」

「カメラ」の位置にかなり工夫が感じられる。

誰かの視点に近い。でも、そこからほんの少しずらした位置から撮っている場合が多い。1人称でも3人称でもない、その微妙なずれがその人物の気持ちの動きや揺れを垣間見せるようだ。

「光」はとても雄弁である。

ガソリンスタンド、車の窓から見えるドライブインの自販機。トンネルの照明、コンビニの蛍光灯、車のライト。

あちこちにある部屋・台所の電灯、街灯や防犯灯。

朝の光。玄関に、居間に、台所に、風呂場に、和室に射し込む柔らかい光が充満していく。

動物園でキリンの横から射し込む太陽の光。

光のイメージが感情の移り変わりと交錯する。アパートの廊下。朝の白んだ光に包まれて、気持ちの通い合う瞬間が心地よい。

「テレビ」。原作にはない目立つエピソードを挿入。

テレビでニュースを見る形にして、微妙なメリハリを付けている。世の中の何気ないつながりのようなものを盛り込んで、細かな文脈を、映画的に補っていると思う。それぞれの想いがすれ違いながらも絡み合い、知らないところでそれぞれの想いが交わっている。

効果的だが、ただ、強いて言えば、映画だけに挿入されたエピソードは、会話の質というか感性というか、何か今一歩で、とても惜しかった。

■じんわりと気持ちに浸透していく

今日の一瞬一瞬がとても大切な時間であり、愛おしものであり、特別じゃない、なんでもない日常が宝物のように煌めいていることに気づかせてくれる。

そして、最後に「ヤイコの音楽」が、この感覚を自分の気持ちの中に浸してくれる。

傑作だと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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