[コメント] 草原の野獣(1958/米)
そう、本作の主人公は、ハンターだと云ってもいいと私は思う。勿論、ビッグネームは兄弟の父親−ヴァン・ヘフリンだし、社会的テーマ性という観点で本作の良心を担っているのは弟役のダーレンだが。また、冒頭、ダーレンが話しかけても応えないハンター、逆にハンターが話し始めると、今度はダーレンが黙る、しかし、笑いながら2人で牧場に向かうので、仲が悪いわけではない、という描写があり、2人の関係性を象徴しているようだ。この場面で「リー」についてのハンターの対抗意識が描かれる。あるいは、以前に見た白い牝馬を捕まえて、ダーレンにあげる、と云うハンター。これらの状況を巧妙にセットアップ(お膳立て)するオープニングだ。
リーは、兄弟の父親でヘフリン。彼が、先住民や、ならず者と戦って開拓した牧場の主。息子たちには、兄弟(あるいは友人)のようにリーと名前で呼ばせている。本作のストロングポイントとして、まずは、彼らが、はぐれ馬(ほとんど野生馬みたい)を追う牧童仕事の描写を上げるべきだろう。シネスコの画面をいっぱいに使ったロングショットの構図が端正で惚れ惚れする。流石は『去り行く男』のチャールズ・ロートン・Jrの仕事だと思う。特に、小さな崖のある小川の中を襲歩(ギャロップ)でもって騎馬を走らせたショットの素晴らしさ。
後半は、荒野や平原での牧童仕事の場面よりも町の中のシーンが増えてしまうが、撮影は変わらずしっかりしている。プロット展開としては、ハンターとヘフリンの確執が全面に出て、さらに、銃規制に関する町の人々の意識の変化だとか先住民(スー族)の血を引くキャスリン・グラントとダーレンの恋愛譚の部分も盛り込まれるが、ハンターの素行の悪さは、ダーレンの優しい性格と対比するように描かれて、加速度的に破滅へと突き進む。そういう意味で、ハンターの破滅型人物としての魅力を引き出した部分も本作の良さだと思う。それに、町中ではハンターの見張りとして付きまとう副保安官−ミッキー・ショーネシーが、いつもニコニコしていて、コメディパートのような転け方をするシーンもあるという造型なのも終盤に効いてくるし、酒場で女たちをからかいながら、主題歌を唄うハンターの場面があり、そこに弟のダーレンがやってくると、ハンターがとても嬉しそうな表情をする、といった場面もお膳立てになるだろう。
そして、終盤は岩山の西部劇になる、というロケーションの選択もいい。また、長々とした銃撃戦なんかを描かずに、簡潔な決闘シーンで、あっという間に決着がつく、というのも良い演出だ。ワンカットの中に2人の人物を縦構図で見せて、まったくカットを割らずに、1対1の早撃ちの決闘を表現するのだ。
尚、邦題はかなり酷いものだと思う。「草原」も「野獣」もピンと来ないし、これでは西部劇とも思えない。本編を全く見ずにつけられたとしか考えられない。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・先住民の周旋所(交易所)の管理者はエドワード・プラット。
・町の保安官は、ロバート・F・サイモン。予審シーンの判事はウィル・ライト。予審の際、ハンターに有利な証言をするシーベルツはレイ・ティール。
・ヘフリンの側にいる牧場の牧童頭(?)はポール・バーチ。
・ヒロインのキャスリン・グラントは、当時、ビング・クロスビー夫人。
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