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[コメント] 21グラム(2003/米)

それを失うことが約束されているからこそ増加するスリルと悲しみ。喜びと官能。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この物語を描くにあたり監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの選んだ映画文法は前回とほぼ同じ「時間軸解体穴埋めパズル方式」。一見すると表層的なようだが、実はこれは、前作以上に、作品テーマと密接に絡み合う、必然の選択だった。

例えば、鋪道を歩くナオミの娘二人がデル・トロにひき殺される一連のシーンに於ける、見ているのがつらくなるようなスリラー描出。それだけで観客を、事件当事者と一体化させる見事な(そして残酷な)手管だ。

ペンとナオミの肉体関係。ファーストシーンで予告しておいて、焦らしに焦らす。男は皆、ペンの立場に立って焦れる。ナオミを抱きたい、守りてやりたいと心底思う。

物語の決着の付け方に付いても然り、断然意味がある。肩透かしでも、うわっつらのどんでん返しでもない。重要なのは「結果」であって、「手段」ではない。デル・トロがペンとナオミの部屋へ押し掛けた理由、ペンが自らを撃ち抜いた理由など、そんなことはもはやどうでもいいのだ。

ペンは「再び眠る」ことを予め約束されていたのだから。蘇生した彼が、再び昏睡するまでの数ヶ月、乃至数年間に、どれほどの偉業を成し得たか?愛する者にどれほどの喜び(*)を与えたか?それは最期のナオミの表情を見れば一目瞭然である。

他人の心臓で生きたペンの数ヶ月は、宇宙の歴史からの見た人間の一生に等しい。いつか死ぬことが判っていて、それでも「生き続ける」「人生は続く」っていのは一体どういうことか。この映画は人間の脳裏に広がる荒野を描いた寓話である。そして其処でそれでも生き抜いて行く人々を讃えた、力強い人間賛歌だ。

新しい命を宿したナオミは当然、ドラッグから立ち直るだろう。俺はこの映画に救いと希望を感じた。

(評価:★4)

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