社会的に不安定な二人が、純粋に好きなだけなのに周りが許してくれない。二人の関係性は大変もろくて、ちょっとでも触ろうもんなら簡単に崩れてしまう。そのバランス感覚はカラックス映画と似ていると思いました。人は良いんだけど子供臭さが残るジョンドウ。彼の行動がとにかく衝動的で、観ていてとても不安になる。マンションの上から唾垂らしたり、麻雀店？でお客をガン見したり、ハイウェイで撮影スタッフのじゃまをしたりとホント小学生か！と思ってしまいました。

そんなジョンドウですが、コンジュの部屋で会話をするシーンで「好きな色は何？」とジョンドウは「白がいいな、綺麗だしね」と続けざま「好きな食べ物は？」その答えにジョンドウは「ジャージャー麺かな世界一旨いよ。」と割とどうでもいい会話が続くんですが、さっきまで馬鹿野郎な男だなと思っていたジョンドウが、彼女に対してとても優しく接しているんです。観ていてホッコリするシーンでした。けど、その後コンジュが「夏は嫌い。特にハエと蚊は大嫌い…」とさりげなく言うシーンがとても印象的でした。あんな体じゃ蚊や蠅なんか殺せないし、不快な音を延々聞かされるなんてそりゃ地獄だと思いました。

ジョンドゥとコンジュが道ばたで喧嘩しているシーンもいいですね。すねてるコンジュがとても可愛いくて、もう僕の目にはデートしているカップルにしか見えません。しかし周りの人達には、あの二人はまさかカップルとは思わないでしょう。その辺のギャップ感が面白いなと思いました。最初はムン・ソリの迫真の演技力には驚きつつも、ただバタバタと動いているだけで感情的な表現など出来ないと思ってました。ところが彼女にも笑ったり泣いたりするんだと気づかされる。電車のシーンで向かいのカップルのやりとりがおかしくて彼女は大笑いするシーンなんかは、コッチが驚いてしまいました。

映画全体的には大変面白かったし感動もしました。けど気になる点もいくつかあります。コンジュは何故一度レイプされそうになったジョンドゥに電話をしたのだろうか。とても大胆な行動だったと思います。恐怖心より好奇心が勝ったんだろうけど、それにしても無謀な行動だと思います。また同じ目に遭うかもしれないのに。もし僕が同じ立場なら、一度レイプをされかけた男性に対し、こんな私に少なくても興味を持たれたという事が気になるかもしれません。でもまぁ最終的には、ジョンドウの印象が良かったんだろうと思います。僕を含めコンジュを見る目線はとても冷たかったんでしょう。しかしジョンドウだけは対等に目線を合わせ自然に会話していました。僕なら「可哀想に…」と思うだけで会話なんか出来ません。その前に「この人はしゃべれるのか？」とか思ってしまいます。

彼女がイメージとして現れるシーンが3〜4回ほどあるんですが、正直多いなと思いました。電車での使い方は「上手いな」と思いましたが、ジャージャー麺を食べてるシーンなんかは入らないなと思いました。あと像とインド人？がコンジュと踊るシーンもカットだな（実際はとても素敵なシーンなんだけど…）。何故かというと、もし駅のホームで初めて彼女のイメージシーンを使ったとしたら、僕は驚きのあまり涙が止まらなかっただろうなと思いました。前に何度かイメージシーンを使っていたので、驚きと感動は少し薄れていました。あと個人的になんですが、実はお兄さんが人身事故を起こしていたという設定はやめてほしかった。その流れで映画観ちゃうと、お兄さんも含めあの家族はジョンドウに対して少し冷たいんじゃないかと思ってしまう。なんていうか話が少し大味になる感じで好きじゃない。人身事故を起こしたのはジョンドウで、家族も困りはてているがお兄さんはそれでも職を探してあげたり、自分の工場に働かせたりという設定がリアルかなと思いました。

批評家の有一さんも書かれてましたが、コンジュが一人で鏡遊びしているシーンは、声を出すほど素晴らしかった。広いと言えないアパートの一室で、毛づくろいをした鳩が「パタパタパタ…」と優しく飛び回るんです。鳩にとっては狭い空間なはずですが、とても楽しそうに飛び回っているんです。僕的にCGで表現した映像では一番美しいシーンでした。鳩が飛ぶシーンって他の映画でも見かけますが、大抵そんなに良いシーンじゃないんですよ。表現がワンパターンというか、特にCGが使われるようになってからは、「どこまでも飛ばしてやろう感」が半端じゃなくてげんなりしてしまいます。

色々書いたんですが、ラストシーンは大変素晴らしかった。警察署から脱走して、わざわざ木の枝を切りに戻ってくるジョンドウ。とても彼らしい行動だと思います。周りの人達は、「キチガイだよ…」とまさかコンジュに対してそんな事していると思わないこのジレンマ！素晴らしいシーンです。本当に感動しました。バックで流れてるチープなラジオの使い方もとても上手いと思いました。ハイウェイでの渋滞の時にもありましたが、音楽のセンスがとてもカッコイイなと思いました。