[コメント] みなさん、さようなら(2003/カナダ=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この知的な世界を味わうには、様々な歴史、様々は社会情勢を理解しないといけません。
この映画がアカデミー賞を受賞して、ドゥニ・アルカン監督が奥様のプロデューサーと来日されたときのコメントがとても印象的です。
要約すると、
・この映画の脚本執筆中に9.11テロが発生した ・ローマ帝国の滅亡と、現在のアメリカが進む道程が類似している ・アメリカは戦争を行うことで自国の利益を生み出してた
これは、政治経済の世界でよく語られることで、言ってみれば20世紀は戦争と自然破壊の歴史だったということですね。(だからオバマ大統領が演説するだけでノーベル賞を受賞できてしまうんでしょう。)
映画はコミカルに描かれていて、冒頭に書くような深刻な話とは無縁です。
しかし、余命幾ばくもない父親に少ない余生を提供するために、ぶつかり合う息子が必死になって(金に物を言わせて)尽くそうとする姿勢がいかにもシニカルです。
また、痛みを訴える父親にヘロインを投与するために非公式に麻薬を入手する場面。ある女性を介して手にいれるのですが、その女性が中毒になっている。病気に使われるヘロインと中毒としてのヘロインが同じ価値を伴って表現されているところも皮肉です。これもまたアメリカの現実を皮肉っているように思えます。
『父、帰る』というロシア映画と一緒に見ると、お国柄の違いを感じながら、父親像の差異と、息子の姿勢が象徴的に感じられます。
最後の最後になって、父が息子に「お前(息子)と同じ子を作れ」と伝えて抱き合うシーンは感動的です。
自らに置き換えても、息子としてこのようなことを自分の父親にはできませんし、自分の息子たちがこれと同じことをしてくれることなどないでしょう。
ですが、家族というものが、いつの間にか自立した関係の中で刺激しあうとようになり、そして”死”と直面することで、失った絆が結ばれるというありきたりでありながら難しい実態を、この時代の社会現象を交えて見事に表現されていると思います。
ラスト近くで別荘に移動してからの素晴らしい風景も見事。やはり映画でしか味わうことのできない芸術。文学でも音楽でも写真でも表現することのできない風景描写。これが映画の醍醐味ですね。
感動しました。
2010/01/01(自宅)
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