[コメント] 人間魚雷回天(1955/日)
他にも待機組には、高原駿雄や織本順吉もいる。織本がめっちゃ若い。彼らが、会議室のような、レクリエーション・ルームのような部屋で、訓練中に死んだ仲間の弔いを行っている際(龍谷大出身という設定の高原が、お経をあげ、死んだ仲間の母校である明治大学の校歌を唄う)、士官学校出身のたたき上げの少佐である高橋昌也に全員殴られるのだが、このシーンで高橋が「お前ら、シャバっ気が抜けていない!」と怒鳴る。この後、岡田英次らも、自ら「シャバっ気」という言葉を何度か使う。このような、一般大学出身の予備士官と、士官学校出の将校との立場の違いの描き方も興味深い。
さて、本作の構成は、大雑把に云って、訓練中の場面、出撃前夜の場面、そして、出撃後の戦闘(特攻)場面に分けられるが、矢張り、こういう映画の常で、出撃前夜の各場面が断然いい。多くの者は、徳山辺りに上陸して芸者遊びをする。これを気のいい主計少佐が仕切るのだが、演じているのが丹波哲郎、というのが面白い。一方、岡田英次は一人兵舎に残る。ずいぶん歳上の兵(階級は上水)、加藤嘉と殿山泰司が、古参兵から制裁を受けているのを助けてやり、特に加藤が母校(東京帝大)の先輩(先生)だったことが分かり、夜を徹して話をする。また、木村功は、芸者遊びには参加したものの、芸者との同衾を拒むのだが、そこに、彼の恋人、津島恵子が訪ねて来る、という嘘のような展開だ。さらに、木村と津島が浜辺を行くシーンが凄いことになる。二人で、明るい江ノ島の海水浴場にいることを想像するのだ。こゝだけ、フラッシュバックのように画面が具現化する。そして、津島がダンスするシルエット。まるで白鳥の歌のよう。ちょっとやり過ぎだとは思うけれど、しかし、この過剰な非現実感こそ映画なのだ、と言ってしまいたくなる。
そして、翌日、出撃命令を受けた士官たちが、潜水艦に乗り込むシーンの造型も良く出来ている。潜水艦自体の美術もいいし、見送る軍人たち(高橋昌也ら)との距離の見せ方、空間の見せ方が実に的確だと思う。全体にチープな画面だが、見せるところは、よく見せる。
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