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[コメント] スパニッシュ・アパートメント(2002/仏=スペイン)

異文化体験としての留学のすすめ、アメリカになびきがちなイギリスを少し皮肉ったEU映画、と2重のテーマだが、「他者」は決して出てこないがゆえに自己完結したユートピア映画になっているのだ。
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なんとも類型化された「国民性」を体現したそれぞれの登場人物が、異なりながらもひとつの共同体(=EU)を作り上げて行く過程を描くドタバタモノであり、映像や音の遊びもあって、それはそれで漫画的な楽しさに満ちている。しかしここには、ほんとうの意味での「他者」は出てこない。他者ってのはもちろん、東欧やトルコなど、現実のEUが直面している国々であり、アジアやアフリカなどの諸国でもある。また、それぞれのステロタイプな国民性から大きく逸脱するような異形の者も。異文化混淆というわりには、そういう人々をあらかじめ排除しているのであり、しょせんは西ヨーロッパの中である程度共通の文化を持ったものどうしのママゴト的な異文化体験が描かれているにすぎない。だからこそ、あのアパートは、予定調和的なユートピア空間たりえているのだ。

作り手としてはそこまで計算に入れた上で、単なるEU宣伝映画のフリをしながら、逆にEUの現状をメタ的に茶化しているのだ、という好意的な解釈も成り立たないわけではないし、そこまで考えているのであればそれなりに面白い試みではある。といっても、「猫が行方不明」などで行われた、画面外から聞こえてくる不気味な音などの「映画的他者」を導入することでその意図をほのめかすぐらいのことはこの監督ならできたはずだ。しかし、それさえもこの映画では飼い慣らされた形でのお遊び的な使い方しかなされていないため、やっぱ底の浅いEU宣伝映画にすぎないのか?という疑問をぬぐいされないのである。

(評価:★3)

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