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[コメント] リトル・ショップ・オブ・ホラーズ(1986/米)

貧民街から抜け出そうとする主人公の願望の権化としての、人喰いフラワーロック。この手のコメディは、笑っていいのか戸惑うくらいにやってナンボだろう。まだまだ血と肉が足りない。町の造形はよく出来ているが、どこか舞台美術風の窮屈さを感じなくもない。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この題名は「Horror」と「flower」をかけているんだろうか。オードリー2(レヴィ・スタッブス)の造形は丁寧な仕事だが、デザイン自体は、ハエトリグサを見たことのある人なら容易に空想し得る範囲。花屋というシチュエーションと、グロテスクな人喰いモンスターとのギャップが、悪趣味なギャグとして演出されていないのも詰まらない。偏屈なオッサン(ヴィンセント・ガーディニア)が経営する古臭い店内にアレがあっても、割りと普通に馴染んでしまうので、画としての面白みに欠ける。僕なら、歪んだ少女趣味の、頭の中がお花畑の店長にして、店内もそれに見合ったものにデザインしたいところだ。例えば、夫の遺産で趣味的に花屋を開いた婦人が、仕事は安月給で雇ったシーモア(リック・モラニス)とオードリー(エレン・グリーン)に任せっきり、場違いな所で売られる高級品種の花を買わない貧民街の連中を、趣味が悪いとバカにしている、とか。

シーモアが、オードリーへの思いを成就させる為の踏み台としての、オードリー2。その造形といい、シーモア自らの血を吸わせて大きくすることといい、どう見ても男根ですね。オードリー2とオードリーの歌唱力が、この映画のエモーションの大部分を担っている印象があるのも、物語上、オードリーとオードリー2は、間にシーモアを挟んだ表裏一体の関係だからでもあるだろう。因みに『ゴジラvsビオランテ』に登場するビオランテは、オードリー2をより凶悪化したような怪獣なんですが、こちらは父が娘に寄せる愛情の権化なんです。倒錯度では勝ってるかも。

また、歌う語り手として登場した三人の女性シンガーが、シーンごとに衣装も替えつつ、天使のようにも悪魔のようにも再登場する演出も愉しい。オードリー2による店長捕食シーンでの、店の窓ガラスの向こうにボンヤリと三つの人影を見せるシンガーたち。妖しい光に照らし出された、リズムをとる手。惨劇の光景に被さるかたちで現れる足もと。シーモアを追いつめるように、その周りで歌うシンガーたち。その一方、シーモアがオードリーと将来を誓い合うシーンでは、遠くから二人を見守るように歌っている。

登場人物の中では、やはりあの、オードリーを支配するサド歯科医・オリン(スティーヴ・マーティン)だろう。彼が自らの経歴を高らかに歌い上げるシーンの演出が笑える。少年時代の彼の凶行を見た母親が「あなたの将来は決まったわ」と言ったのだと歌った直後にその真っ黒な革ジャンを脱ぎ、「歯科医」などという至極真っ当な職業を歌い上げる、白衣のオリン。ここで可笑しいのは、そこでギャップを感じると同時に、苦痛を与える者としての歯科医という符合を、オリンが歌う前に観客の方で納得してしまえるからでもある。「大きく口を開ける」という点では、歯科医院はオードリー2とも符合する。

ただ、歌唱シーンがイイ感じな反面、気の利いた台詞が全然足りないのが退屈。お話自体も悪ノリがまだ弱く、貧民街を舞台にして、富や名声よりも愛する人と家庭を持つ方が幸せ、という紋切り型をそのまま遂行してしまっている嫌いがある。それはまた、オードリーのキャラ造形があまりに戯画的に過ぎるせいでもある。どこかに、シーモアが熱烈に恋する根拠となるような理由が、たとえ変態的な理由であってもいいから、何かあってほしかった。

ラスト・バトルでのオードリー2にしても、小さな花までたくさん現れて、グロテスクさとポップさの相乗効果がシーンを盛り上げるが、最後に電線接触ビリビリの一発で、宇宙の星々のような火花を散らして消滅、という呆気なさには萎える。金と手間はかかるだろうが、遂に鉢の拘束から逃れたオードリー2が、町を破壊し暴れまわる様などが見たかった。

素材は面白いだけに、勿体ない。今ならCGなどを用いて存分に画面を掻き回すことも出来るだろうから、そろそろリメイクしてくれてもいいかもしれない。レディー・ガガをオードリー役に据えて、エドガー・ライトの演出で3D化してくれたら観に行きたい。(ガガは“Telephone”のPVが、ライトは『ショーン・オブ・ザ・デッド』が最高だった故)

(評価:★2)

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