[コメント] 紅い眼鏡(1987/日)
『ビューティフルドリーマー』の衝撃は大変なものだった。マジでこれはすぎアニメが出てきた、と思ったものだ。84年、『風の谷のナウシカ』、『ビューティフルドリーマー』(以下、BDと省略)と、その後の日本社会を左右する2大アニメが一騎打ちしたわけだが、この時はBD派だった。当時心の曲がった学生だった私は「ナウシカ」はどうも良い子ぶってて好きになれなかった。何不自由の無いお姫様が自然を大切ししましょうだの、戦争は良くないだの、ケっ何言ってんだ?やっぱBDの隠微な世界が性にあってるぜーという感じであった。ヒイキにしていた評論家もだいたいBD派だった。まあ、左翼くずれの人が多かった(笑)。
で、「赤い眼鏡」なんだが・・・これは違うだろ、と頭の中で声がした。当時心が曲がっていたので、私は楽屋オチとか、仲間ウケというものが大嫌いであった。いかにもアニメファンが喜びそうな声優を(実写しも関わらず)起用したり、 天本英世、大塚康生・・・気持ちは分かるがいかにも媚びている、そう思った。これを見て、数々のギャグもこれがアニメならちょっとは面白かろうが、生身の人間がやっては間の取り方も違うだろう、全編演技が上滑りだ。ついでに言うと引用や衒学趣味も嫌いだった(無論心が曲がっていたからだ、今だったら笑って許せる)。 これを見て図らずも分かったのは声だけの演技と身体全体を使った演技はやっぱり見た目もリズムも全然違う、ということだった。
今見ると、映像についてやはり見るべきものがあった。特に非合法立ち食い蕎麦屋の異様な雰囲気は、つげ義春の夢をテーマにした不条理マンガに出てくる絵みたいでなかなか良かった。しかし総体的には鈴木清順の映画をヘタに模写したような感じだった。 ということで、これを見て私は「押井ももうダメだな」とさっさと見切りをつけてしまい、その後90年代は仕事が猛烈に忙しくなり、日本映画がとてつもなくつまらなくなり、映画を全然見ない時代が始まり、それは『攻殻機動隊』のことを情報誌でたまたま見、「あれ、押井まだ生きてたんだ。」と思うまで続いたのだった。
この時すでに20代のコアな押井ファンが大量に発生していたことなど知る由もなかった。
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