コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 誰も知らない(2004/日)

失われた物を求めて
Linus

感覚が研ぎすまされるのが好きだ。なぜなら自分を美しい場所に導いてくれるから。 例えばそれは、人であったり音楽であったり文学であったり映画であったり絵画であったり写真だったりする。そんな時、体中が張り詰め泣きたくなるし、実際わけもわか らずただポロポロ涙を零すこともある。別に悲しいから泣いているわけではなく、 あまりに美しいから泣いてしまう。本作品は、そのような体験の一つだった。

パンフレットの中の是枝監督の文章に、他者から見たら「不幸」なことにも、 内側から見たら「豊かさ」が存在するのではないか? みたいなことが書かれていた。 この「誰も知らない」という作品は、両親がいない。お金がなく生活に困っていた。 という観点から不幸な子供たちというレッテルを、世間に貼られている。 この他者というのは、大人の視点だ。しかし大人の押し付けがましい価値観と お涙頂戴な演出を排除した結果、類い稀なるドキュメンタリーのようなフィクションとして成功をおさめている。

この「豊かさ」は何なのだろう? と考える。少し似ているなと思ったのは 『運動靴と赤い金魚』である。絶対的貧しさの中で、男の子が妹のために健気に 走る姿は、ただそれだけで美しいし胸を打たれた。しかも「貧しい」を「不幸」に することは誰でもできるが、「豊かさ」に変えることは、なかなかできる ことではない。映画館の中は、かなりの年輩者が多く見受けられたが、たぶんこの 映画を戦後に重ねてしまう人もいるのではないか? きょうだいが多くて 貧しくて、学校に通えなくても、未来を信じていた時代。あの時代の人は、 本当に自分より家族を大切にする。私なんかは、自己犠牲を惜しまない人たちだな、と思ったりするが、自己愛の強い人間にそんなことを思う権利はないな、と反省をしたりもする。

たぶん明くんは、今の子供の価値観ではない。そういった意味でフィクション だけれども、布団を干した後のおひさまの匂い、ラーメンのカップから伸びる新緑の芽、 お母さんと一緒に食べるドーナツ、ゾロゾロ歩くきょうだい、空を横切る飛行機、 初めてできた友達、自分で作ったカレーライス、少年野球の試合、通りに咲く桜、 淡い恋心を抱く中学生、コンビニの優しいお兄さんとお姉さんなどは、欠落しているからこそ貴く、宝石のようにいつまでもキラキラと輝いている物なのだろう。

もし間違っていたらゴメンナサイだけど、煙突は男根の象徴として父性を、 そして妹が押入れに入るのは、胎内回帰で母性を映像で表していたのかな、と 考えたのですが、少々飛躍しすぎかな? まぁ、普通に考えて煙突は、 あくまでもサンタクロースの話から出た映像と考えれば良いのか…。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)SUM[*] peacefullife[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。