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[コメント] 父、帰る(2003/露)

幼い子供の勇気と反抗期の理性が風景の中で洗われます。(5点じゃ足りません)2010年1月1日鑑賞
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







久々に素晴らしい映画を観ました。

色々製作過程において驚くべきことが多いこの映画です。

・これが監督初作品であること ・長男役の子が亡くなってしまったこと

この2点について言えば、この映画が成立するために不思議な因縁のようなものを感じます。

とにかく映像が素晴らしい。

風景の中に冷静な視点が込められていて、どのシーンをカットしても映画として十分成り立ちます。

父が帰ってきた翌朝の食卓。

このシーンだけで映画としての迫力が十分伝わります。

やはりロシア映画はソビエト連邦時代から、映画スタッフ(技術)の力を十分に養ってきているので、どんなシーンも素晴らしく丁寧に表現されているんですね。

かつて黒澤明監督がロシアの文豪ドストエフスキーの『白痴』を映画化し、その黒澤明監督がモスフィルムで『デルス・ウザーラ』を撮影すると決まると、多くの優秀なスタッフがこの映画に協力したというエピソード。

そして、当時アンドレイ・タルコフスキーが『惑星ソラリス』を撮影していて、この映画の中で東京の首都高速のシーンが表現されています。

このように、日本とロシアは映画の世界で共通する技術力と表現力を重ねていて、日本人が見てもこの映画が郷愁を思わせるのには、深く文化の歴史的交流があるからこそなのではないでしょうか。

父の存在が煙たい少年時代。会話が成り立たないお互いをロードムービーとなったこの映画では、父から子へとその意思が伝わってゆくんですね。

衝撃的なラストですが、父の亡霊と抱いた数日間の輝きが、少年二人にとって大人への一歩となりました。

私には父親との交流はありませんでしたし、自分の子供ともろくに接点がありません。

それはもしかしたら、父親にとっては自分の存在が失われてから、子供にとっては父親の存在を失ってから求めあうものであって、どの時代、どの国でも自ら交りあうことのない存在同士なのかもしれません。

内容もさることながら、この美しい映像を提供する類まれな才能を持つ監督とスタッフに敬意を表したいと思います。

とても5点では足りない映画でした。傑作!

2010/01/01

(評価:★5)

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