[コメント] 肉体の悪魔(1986/伊=仏)
圧倒的な演出力の映画だ。もう冒頭から異様なテンション。屋根。画面奥に、学校の教室の窓。黒人の女性がスリップ姿で屋根に出てきて、泣きわめく。飛び降り自殺をするつもりなのか。近所の人達や教室の生徒達が窓やテラスに現れる。その中に、マルーシュカ・デートメルスが鮮烈に登場する。
黒人の女性とどういう関係か分からないのだが、二人が尋常ではない強度で視線を交わすのだ。このシーン、単に主人公の高校生アンドレアが、デートメルスを一目惚れするためだけに用意されたシーンだろう。それをこれだけ突出したオープニングとして演出する。こゝからラストまで、驚きに満ちたシーンが連続する。例えば2度目の裁判所のシーン。なぜか、檻の中に沢山の収監者が閉じ込められており、その中の一組の男女がキスしている。だんだんとエスカレートする男女が引き離されようとする際に、傍聴席のデートメルスは「最後までやらせてあげて!」と叫ぶのだ。あるいは、精神科医(アンドレアの父親)の部屋。男性患者がソファに横になった後、時空をまたいで、裸のデートメルスにすり替わる唐突さ。別の場面でも、デートメルスを部屋のソファに横臥させたバストショットが異様な長回しだったり、アンドレアがロープを使って綱登りでデートメルスの部屋へ入った後のベッドシーンでも、フィクスのカットが考えられないぐらい長い、といった部分は、普通の編集ではない。その他、ナイフやフォークが沢山散らばらる床の上で、狂ったように踊るシーン。笑いながら寝ているアンドレアにハサミを持って迫るシーン。あらゆるシーンで驚きがある。何よりも、デートメルスの狂気的な美しさがラストカットまで持続する。デートメルスを見るベロッキオの(そして観客の)欲望をカメラが体現している。そういう意味で、圧倒的な「演出家の映画」なのである。
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