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[コメント] ある機関助士(1963/日)

機関車映画史上屈指、興奮必至のスペクタル。機関助士はいろんな課題を抱えながら、全てが西日を浴びた車両基地を出て、宵闇に向けてC62を爆走させる。野蛮かつ正夢のように美しい撮影編集。土本初期の傑作。★6級。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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岩波映画が後年の良質なTVドキュに多大な影響を与えたのが確認できる。国鉄はこの路線で事故を起こしており、その対応の記録、土本は反対を押し切って事故路線で撮った由。

午前8時から午後8時までの勤務、常磐線上野-水戸間1時間40分の往復。通過駅30、信号150、踏切300.蒸気機関もいずれ電化になると語られる。水戸では休憩時間が与えられている。国鉄の安全対策がテーマらしい。運転士の人体測定によるデータ集積。プラモを使っての点呼テスト。精神機能テストは早くできればいいというものではない(考える前に体が動いている)と云われる。控室でのぞっとした体験談。「自殺者には、汽笛を鳴らすとかえって決断力を与えるのではないか」という考察が記憶に残る。

事故演習。踏切障害、発煙筒振り回して走って(子供たちが一緒に走っているのが面白い)前後800ⅿ地点の線路に信号用雷管を貼りつける。前後の列車はこれ踏むと爆音が出るので停止する。これは今でもあるのだろうか。蛇足だが、水戸駅のアナウンスは列車到着時に「ミトーミトーミt−」と三回繰り返している。普通は二回だろう。「津」など5回ほど連呼するのだろうか。気になった。

これらを踏まえて後半は水戸から上野への帰路。列車の遅れは上限速度95キロの範囲内で回復しなければならない、という規則が読まれ、これが実施される。安全対策にこの条件が付加され、フィルムは緊張感を増す。この時間帯を夕方から陽の暮れに設定したのが映画の成功の要と思われる。

西日は本作の主役級であり、望遠で眺められた色んなものが動き続ける車両基地を全て黄金色に染める。そこから夜の上野駅まで、汽車は次第に暮れゆく空の下を突っ切る。黒煙白煙が渦巻き、青や赤のシグナルが迫ってくる。手ブレ画面の両側を色んなものが飛び去る。何百の視線を浴びながら通過駅のホームを特急は飛び去る。助士へ機関士(格好いい小父さん)からの指示が飛ぶ。ブレッソン好みの軍手のアップの連続。ぶら下がった鎖は何だと思うと軍手が引く、このショットの格好よさよ。目標の取手駅で定時に戻し。機関士は煙草を吸う。「特に異常ありません」と報告したと告げるハードボイルドなラストも素晴らしい。

(評価:★5)

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