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[コメント] やさしい嘘(2003/仏=ベルギー)

安直で商業的とも云える邦題から抱いた予測を、いい意味で裏切られた。百本に一本の脚本を、百人に一人の無名女優が演じ切る。
町田

イタリア、アメリカ、ドイツ・・・’90年代末以降、各国で量産されている、嘘の好意的側面にスポットを当てようという作品群の中でも、この映画の「脚本力」は精彩を放っていると思う。

効果的に省略を用いテンポの良い前半、嘘の発覚までを驚くべき入念さで描く中盤、いやがおうにも嗚呼と唸らされる終盤と、希望を感じさせるラスト、本当に完璧だ。前述した同系の作品たちが、その設定の奇抜さに甘え、予定調和的であったのに比べれば、これは絶賛に値する。

エステル・ゴランタンの演技については今更云うまでもないだろう。存在からして絶品であった。

グルジア民謡が歌われるミュージカルシーンも高揚感に溢れていた。

映像についても申し分ない。特に色味がいいとか、アングルがいいとか、そういうことは感じなかったが、ロケーションへの徹底した拘りに作り手の良心を感じた。雨だとか、風だとか、鳥だとか、或いは共同墓地の向こうに並んだ団地だとか、とにかく雄弁な「背景」であった。

また作品の序盤で、ギョーム・アポリーネルの有名な詩『雨が降る』がチラっと引用されているが、映画を観終わった今、再読してみると、実に有意義な引用であったことが判る。嘆きや出逢い、後悔や絆は、雨のように不意に、しかし同等に、私達の元に降り注ぐものだ・・・嗚呼、その通りですね・・・。

(評価:★5)

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