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[コメント] やさしい嘘(2003/仏=ベルギー)

お婆ちゃんが何か『ベルヴィル・ランデブー』のお婆ちゃんに見えた。 2005年2月17日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







プロットは一見『グッバイ・レーニン』な印象を受けた。っていうか殆ど一緒。考えて見れば、クライマックス、お婆ちゃんが息子の死を知っていながらも、娘と孫の二人の嘘に話を合わせるシーンも酷似している。ま、模倣ではないだろう。

政治的、歴史的背景を殆ど知らない状態で鑑賞。鑑賞後、どうしても何かピンと来ず、どうも消化不良な印象を受けたのだが、成る程ある程度前知識を入れてから鑑賞した方が良かったのかもしれない(っていうかそれ以前に合格発表までの時間をコレを見ながら潰してたから、集中してなかっただけかもしれないけど・爆)

そういった政治だの歴史だのと言った背景を示唆するシーンとして、祖母が過去を振り返って「あの頃は良かった」と回想しているのに対し、娘が「スターリンなんてダメよ」と言い、帝国主義を痛烈に批判する。そして孫娘があくまでリベラルに「そんな話やめてよ」と言う。まぁこのシーンを見て俺はてっきりロシアの話かと思ってたんだけど、「ロシアから独立した国家」の話だったんだよね。恥だ、恥。

ラストシーン、パリから帰る飛行機に乗らず、単身パリの街へ向かう孫娘。それを喜ばしく見つめる祖母と、涙を流しながら複雑な心境で見つめる娘。あのシーンには思わず鳥肌が立った。

勿論、その前の、祖母が娘と孫の嘘に気付きながらも話を合わせるシーンで俺は泣いてたんだけど、このラストシーンの複雑な感情は中々描けた物じゃないだろう。

既に自らの叔父がパリで苦労していた事を知っているにも関わらず、自分の未来の為にあえて危険な道を歩むその顔に溢れる希望。希望を託しながらも不安でたまらないその母と、孫の成功を親身に祈る祖母。

――っていうのは凄く良かったと思うんだけど、俺、どうしてもお婆ちゃんの態度に今ひとつ共感できず、少し苛々していた。

と言うのも、息子が自分の成功の為にパリに出ているにも関わらず「手紙に金が入って居ない」と憂えている姿に俺は嫌悪感を感じた。例えそれが「母に金を送る余裕がある=生活は苦労してない」と言う証明であるとしても、捻くれた俺にはどうしても守銭奴にしか見えず、殴り飛ばしたくなってしまった。っていうかあんたサラ金ですか?

帝国主義だか共産主義だか社会主義だか資本主義だか知らんが、手前の過去の栄光ばっかり回想して現実を省みずにババアやってる人間には、例えそれが紛れも無い現実で、我が国日本でも同じだとしても、やはり共感はし難い。

事実、そういうド腐れな祖母を見ているおいらには、どうも娘をコキ使ってワガママいい放題のババア、と言う風にしか思えず、感情移入どころではなかった。

それから、男の子が重宝されるのも分からなくも無いが、娘の居る前で息子ばかり可愛がるのも、例えそれが文化だろうと何かの理由があろうと、例えその子の前途が有望であろうとも、今の平和社会でぬくぬく育ってきた俺には、最低の教育としか写らなかった。まぁそれがあるお陰で、苦労人である娘の方に感情移入しまくりだったのだが。

過去の古き良き時代に固執(でもないけど)する祖母。厳しい時代を生き抜いて来て、少々ヒステリックな娘。自由で(少なくとも昔より)安定した国で、きちんとした強要を身に着けて育った孫。

婆さんがムカつく野郎だろうが、何だろうが、主義も歴史も関係なく、ただ自分の未来の為に頑張る彼女の目は、確かに希望に溢れていて現実的でありながら未完、と言うのは、実に映画的だと思う。

歴史が終わって居ないように、映画にもハッピーエンドはつけられない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)わっこ[*] ユリノキマリ

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