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[コメント] 旅立ちの時(1988/米)

リバー・フェニックスだからこそでき得た役。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







リバー・フェニックスが逝ってもう何年になるのだろう。本当に久々に彼の映画を観た。そしてやはり素晴らしい役者であったことを確認し、改めて無念の思いを抱いてしまった。と同時に、よく知られる彼自身の幼児期の体験から、これは彼だからこそできた役であったのだとも思ったことだった。

本作の両親にまつわる設定も一見特異なものであるが、実際の彼の両親も若い頃カルト宗教の信仰者で、それによって幼少期の彼も、両親とともに母国以外の国を転々としていたと聞く。最終的には家族ともにその団体から抜け出すのだが、その間に彼が受けた精神的、肉体的なショックは、彼の薬物依存の根源であったとも言われる大きなものであったようだ。

また彼が堅固なベジタリアンであったこともよく知られているが、これもまた両親の影響を受けてのものであったと公言されている。そのようなところからも、彼と家族とのつながりの深さを感じずにはいられない。さらに彼は家族の貧困を救うため、少年期から路上でパフォーマンスをすることで収入を得、それが役者としてのデビューのきっかけともなったと記憶している。

そんな彼が本作のオファーを受けたときにどんな思いであったかということは、想像するだけでつらいものがあるが、しかし、そのような背景があったからこそ、このような難役を演じ切ることができたのであろうと思う。

映画的には、ラストの彼と家族との離散へと向かう段階での父親の心の動きが、全てを左右するポイントでありながら若干弱い気がするが、特異な設定であることをあまり気にさせることなく一気に見せる手腕はさすがにシドニー・ルメット作品と嬉しくなってしまった。

特に要所で活用される小道具としての自転車の使い方が秀逸であると感じた。家族との突然の別れはつらいものがあったろうが、彼はきっと捨てなくてすんだあの自転車に乗ってまずは彼女のところへ走り、そして祖父のところへと走って、もう名前を変えることなく彼なりの人生を歩んでいったのだろう。そんな旅立ちの象徴としてのあの自転車であったことを、私なりに忘れずにいたいと思った。

しかし、それにしても、そんな彼の生き写しであるかのようなリバー・フェニックス本人がもうこの世にいないという事実には、改めて落胆せざるを得ない。その点だけが本当に残念だと思わせる、やはり本作は彼の代表作の1本である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)jollyjoker[*]

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