[コメント] 日本敗れず(1954/日)
あるいは、本作には、天皇の姿が一切映らない、という点もある。御前会議は2度描かれるが、天皇は映らず、そのミタメの画面で、鈴木貫太郎総理−斎藤達雄がカメラ目線で科白を喋る、といったような演出がなされている。
あと、プロット展開の部分で云うと、題名通り、一日の時間軸を肌理細かに描いた岡本版(原田版)に比べると、本作のメインのプロットは5月23日から始まる構成であり、全体に、かなり端折って感じられることは否めない。また、終盤のクライマックスは、阿南陸相の自決と、玉音放送の録音盤を奪取しようとする叛乱将校の場面、というのはいずれも同じだが、録音盤を守る侍従−北沢彪の劇的な顛末には、かなり驚いてしまった。後で調べると、やはりこれは、史実と異なる本作の演出の盛った部分だ。これらの相違に比べると、本作では全ての役名が仮名であることなどは、些末な事柄だろう。
本作の叛乱将校は、新東宝の同年製作『叛乱』の主要メンバーから安部徹、沼田曜一、細川俊夫、丹波哲郎、小笠原弘が継続しており、これに舟橋元、鈴木紳也(御木本伸介)、宇津井健らが加わっている。中では細川と宇津井が強硬派として目立つ役割りだ。細川は岡本喜八版の黒沢年雄(原田眞人版の松坂桃李)の役であり、『叛乱』の慎重派将校という役柄からの落差も大きい。
そしてこれもまた、たいへんな群像劇だが、主人公を一人選ぶとすると、やはり、陸相の早川雪洲になる。彼の台詞回しは単調過ぎるキライがあるが、それも奏功してと云うべきだろう尋常ならざる貫禄だ。彼に対抗しているのは首相の斎藤以上に外相(東郷)を演じる山村聡で、前半はこの2人がプロットを牽引する。あとは、クーデターに頑として加担しない近衛師団長(森赳)−高田稔と、自ら鎮圧に立つ東部軍司令官(田中静壱)−藤田進も迫力がある。
画面造型の面では、手堅いが、淡々とした場面の連続する感覚も持つのだが、叛乱将校たちの自決場面のクレーンを使った俯瞰の長回しは突出していると思う。皆が画面からハケ、オフで銃声を聞かした上で、パンとクレーン下降移動で死体を見せる。あるいは、冒頭、艦砲射撃、高射砲、戦車戦などのニュースリールを映した後に、5月23日の東京空襲の場面が繋がれるが、こゝが、なかなかしっかり作られていて驚いた。橋から川に飛び込む人々。翌朝、川に浮く死体や岸に上げられムシロを掛けられる死体を映す冷徹な画面。続く焼け跡の場面は、まだ市街地でこんなロケ撮影が出来たのだろうと思うと、よけいに胸に迫る。
#その他の配役などについて。
・海軍大臣は柳永二郎で、軍令部総長は小川虎之助。参謀総長は武田正憲。陸相の秘書官で笈川武夫。玉音放送に関する放送協会の代表者は佐々木孝丸。
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