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[コメント] またの日の知華(2004/日)

1人の女には様々な側面が潜んでいる。それを4人の個性で表現するというのは自然かつ必然であり、かつまたそれぞれの面を4人の女優がみごとに体現している。[シネマスクエアとうきゅう]
Yasu

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







第一章、初々しい若妻の知華。体操選手の道は諦めても、教師として、妻として、また母親としての人生にはまだまだ希望があった頃。彼女の表情は明るい。若々しい魅力を吉本多香美が振りまく。

第二章、夫と離れた知華。周囲の下品な冗談が仄めかすまでもなく、熟れた盛りの彼女にとって、夫の不在は「あってはならないこと」だったのだろう。だからこそ、年下の同僚(田辺誠一)に付け入る隙を与えてしまったのだ。かつて思い描いていたのとは違う人生に疲れてきた頃だろうか、あるいはこのあたりから道を踏み外したことを自分自身分かっているためか、ここでの彼女はほとんど笑顔を見せない。そんな知華を渡辺真起子が好演している。

第三章、元教え子を前に母性を見せる知華。長いこと自分の息子と離れている彼女にとって、男の子との交流は懐かしいものであったに違いない。都会の喧噪や人生の煩わしさからひととき離れているというのもあってか、ここでの彼女はリラックスした表情で、元教え子に対して包容力を発揮している。知華という女の人生の中で、一時の休息ともいうべき時期であろう。しかし結局、彼の姉がやってきたことで、知華は再び自分の人生へと戻ってゆき、そしてその人生は第四章へと繋がるのである。

余談ながら、この第三章で知華を演じた金久美子をちゃんと観たのは、遅まきながら本作が初めてであった。これが彼女の遺作になってしまったそうで、今後の作品も期待したかったところだが、残念でならない。

第四章、流転を繰り返した知華の人生はクライマックスを迎える。ここでの彼女は、いかにも酸いも甘いも噛み分けたといった風情で、これは正に桃井かおりの独壇場である。4人の知華のキャスティングでも彼女が真っ先に決まっていた(というより、企画段階から関わっていたそうだが)というのもむべなるかな、である。

結果的に、知華は流れ者の男に刺されて亡くなるわけだが、第一章から第四章まで、彼女に関わる男(夫、同僚教師、元・教え子、流れ者)をそれぞれ配することで、「男から見た対象としての女」がまざまざと描かれている。夫にとっての知華は若々しい新妻であったろうし、同僚には笑顔のない欲求不満の女に見えただろう。元教え子は彼女を、優しくしてくれた母親のような存在として捉えていたはずだし、流れ者にとっての知華は「人生に疲れた、自分が楽にしてやるべき女」だったのかも知れない。

原一男監督にとって初の劇映画である本作は、もちろん完璧な作品ではない。だが、1人の女を4人の女優に演じさせるという試み(※注)を実行に移し、しかもそれを成功させている(と私には思える)点において、やはり監督の鬼才ぶりはドキュメンタリー以外でも発揮されうるということを証明している。ここは素直に、本作によって切り拓かれた監督の新たなる地平を祝福しておきたいと思う。

※当初、原一男監督は「4人の女優が同一人物を演じる」という案を黒木和雄監督に相談し、「分かりにくいだけで大変だから止めておきなさい」と言われたとか。結局、一晩考えて「やっぱりやってやれ」ということにしたそうだが、これまた「らしい」話ではないか。

(評価:★4)

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