コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ロング・エンゲージメント(2004/仏=米)

十人十色。登場人物それぞれの気持ちの伝達手段に込められた意味。 ジャン・ピエール監督の演出が冴え渡った作品です。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







<<人物像>>

本作を観てまず思ったことは登場人物がみんな魅力的だったということ。

まず女性像について。犬や車掌などの占いで一喜一憂しながらも希望を失わないマチルド(オドレイ・トトゥー)。マチルドはアメリのキャラを踏襲しつつも前向きで芯の強い女性だった。マチルドがとった(取らざるを得なかった)他の女性との対話の手段「手紙」「面会」「暗号」は、3人の女性の境遇を暗示していたのだろう。

ジョディ・フォスターの演技にはもはやコメントする必要もないのでしょうが、市場でフランス語を流暢に話しているのは流石だと思った。彼女の台詞のほとんどが「手紙」の朗読になっているのはうまい(ずるい)(笑) 復讐半ばで捕まりギロチン刑に掛けられる「面会」の女性ティナの「(首より)髪を切られるほうが怖い」との言葉も印象に残る。 自分的に最も印象的な女性は黒板を消す黒髪の「暗号」の女性。ラストで彼女が大柄な彼の妻だと判るのだけど、言葉少なで目で秘密を表現できる彼女は魅力的だった。

男性では、セレスチャン・プーのキャラ造詣がピカイチ。ユーモアを演出するために戦争映画で調達屋をおいしい役どころとして登場させる作品は多いのだが、本作のプーはその中でも一番だと思った。マチルドにビンタされたときのプーのやさしい表情だけでも彼の深みを感じさせるに十分だろう。

マネクの透明感溢れる表情もマチルドとバランスが取れていてよかった。仲間に囲まれたマネクが「明日になれば(魂となって)彼女に会える」と微笑を湛え呟いたあとの静寂には息を呑んだ。

<<セット>>

特筆すべきはマチルドが暮らす舞台だろう。「海辺」「灯台」「2階建ての窓際の部屋」「犬」…。この単純明快なことといったらどうだろうか! あまりにも古典的、且つ、ポピュラーな設定と言えなくもないのだが、ジャン・ピエール監督はことごとく自分の味に料理している。

マチルドへの手紙の訪れを自転車と砂利の「音」で表現する爽やかさ。(そう、便りは音とともに訪れるものだったはずだ!) それが自転車の転倒へと変わるユーモア。プーのバイクの登場。 そこに生き、そこを通り過ぎる人々を快活に表現している。

また、マチルドがマネクに再会を果たすラスト。 彼女は建物の中を通り過ぎてマネクのいる庭に向かうのだが、希望に満ちたマチルドが、陰に埋もれ一瞬のうちに光り輝く演出も(言ってしまえば使い古された演出なのだが)、その映像は見事であった。CG隆盛の昨今、ジャン・ピエール監督は敢えてこうした古典的な演出を用いたのだろう。

戦場の本格的なセットにも目を奪われた。 印象的なのはそんな見事なセットの中に心細げに張られた電話線。 言うまでもなく戦場で電話線は必要不可欠なのだが、死刑囚5人にとって、それは未来、そして愛する女性とを繋ぐ架け橋であった。 振り返って考えると、冒頭、上官が彼らに何度となく引っ掛けないように注意を促していたのが印象的だ。 その彼(上官)がどちら側の人間だったか、いつか再見してチェックしてみたいと思う。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)トシ ばうむ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。