[コメント] コースト・ガード(2002/韓国)
社会的メッセージと、ミステリ/スリラー的趣向の所為で、従来のギドク節が四散し、エグイだけの悲惨な作品になってしまった。
ギドク節の四散、つまり、主要人物の主体性の欠如である。他のギドク映画では入念に描かれている、既成の価値観に対する意識的な反抗や、本能的な逸脱が、本作からは、残念ながら、殆ど全くと云っていいほど見出せなかった。チャン・ドンゴン延ずる男主人公、愛国精神の奴隷、には、そういうものも、前半、少しは垣間見れたのだが、そういう繊細さを表現するに彼は男根過ぎたし、僅かに感じ得たそれも、上記のミステリ的仕掛けによって、最終的に物語の主筋から放擲されてしまう。パク・チアなる女優の演じた女主人公には、その片鱗すら窺えなかった。彼女は事件以降、如何にも狂人らしく狂っているだけだ。それと、彼女の放尿シーンは、他のどんな描写より美しく壮大に、官能的に描かれてこそ、その哀しさが増すものを、あの汚らしさ、ギドクとしては何たる落ち度だろう。
これはイ・チャンドンを目指して失敗した作品とも云えるし、ギドク最大の武器である「無知さ」が齎した悲劇とも云える。『遥拝隊長』や『真空地帯』、『フルメタル・ジャケット』を、私は今更観たいとは思わないのだ。(@シネスク東急)
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