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[コメント] ミリオンダラー・ベイビー(2004/米)

演出に一分の隙も無い。良い所を挙げると切りが無いが、やはりヒラリー・スワンクの熱演でしょう。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あっという間に観衆を雰囲気に飲み込んでしまう本作。それは冴え渡るイーストウッド監督の演出(ジムでサンドバックを叩くマギーの影と音は最高でしたね)と、モーガン・フリーマンのナレーションも然ることながら、なんと言ってもヒラリー・スワンクの入魂の演技の賜物でしょう。

どちらかと言えば華奢なイメージのあったヒラリーがこの役にトライしたこと自体驚嘆なのだが、観るに従いすっかり女優ヒラリーの面影を忘れさせる、素晴らしい演技、素晴らしいキャスティングだ。オトコオンナのような対戦相手のゴツイ体型に引けを取らないヒラリーの鍛え上げた肉体も素晴らしい。

当初、フランキーはマギーが女性であることに拘り敬遠していたが、それは何時しか暗黙の了解となり、信頼しあえる師弟関係が築かれていった。ボクサー・マギーに対して「女」は禁句。それは最期に至るまで貫かれることとなる。女性ボクシングと言う突飛な設定にも全く違和感を感じさせ無い演出には驚き入る。イーストウッド監督にしてみれば、一つのことに打ち込む人間の生き様を描く上で、其処に女も男も無いということだろう。

そんなマギー(ヒラリー・スワンク)の人物像は、年齢を答える台詞「サーティ・・・ワーン」に全てが込められているように思える。フランキー(クリント・イーストウッド)が最初に言ったように、これからボクシングを教え込むには遅すぎる年齢といえるが、“ワーン”、それはスタートの数字でもあり、第1ラウンドKOの数字でもあり、ミリオンダラー(頂点)を意味する数字でもあったのだろう。マギーが発すると、30才超えを意味する「サーティ・・・」までも、そこに不屈の精神を垣間見させるほどだ。

第1ラウンドKOを繰り返すマギーは、遂には同級では敬遠され、ランクを一クラス上げざるを得なくなってしまった(そこがミリオンダラーへの別れ道だったのだろうか?) その頂点のリングで彼女は散ったが、彼女にとってはミリオンダラーを逸したことも、不幸であったことも重要でない。そこに立ち、倒れた。その事実が文字通りファイナルだったのだ。

しかし、劇中のフランキーはその結果に理不尽な答えを見出そうとしたのか、スクラップ(モーガン・フリーマン)に「こうなったのはお前のせいだ」と吐き棄てた。フランキーは知らないだろうが、実はこのスクラップは以前、フランキーとは因縁の仲のマックにマギーを紹介していたのだった。(このようなフランキーとスクラップの辛辣でありながらお互いを思いやる反語的関係は終盤で明かされる)

2人がマギーを理解したのは遅すぎたのか? 否、2人は誰よりもマギーの本質を理解していた、が、止められなかったのだ。スクラップが失明した試合と同じように2人には彼女の前進を止める“権利”がなかった。フランキーはマギーをリングへ導き、スクラップはそれを見守ることしか出来なかったのだ。スクラップがリングサイドに行かなかったのも決して偶然ではないだろう。

前進する者、必ずいつかは止まる宿命にある。彼女の前進は終わった。終命はフランキーに委ねられた・・・。 ここに至り、牧師に食って掛りながらも教会通いを続ける、フランキーの失明したスクラップに対する想いが画面に滲んでくる。そんなフランキーを理解した牧師は「それはあなたをここに通わせたであろう今までのどの罪よりも重い。それに手を貸すと自分を失うことになるだろう」と諭す。 

舌を噛み切り、鎮静剤を打たれたマギーに接したフランキーは、この罪を背負う覚悟を決め、“モー・クシュル”の言葉の意味を贈り彼女を逝かせ、去って行った。 最後に残されたのは、ボクシングジムでスクラップと同じように佇む我々鑑賞者であった。

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余談ながら、奇しくも、尊厳死を扱ったという点で、本作は同年の『海を飛ぶ夢』と同じテーマであった(私は本作を鑑賞するまで尊厳死をテーマにしているとは知りませんでした)。私があちらのレビューに記した疑問点、納得のいかなかった点がほとんど全て本作に描かれていたことにも、流石はイーストウッド監督てな感じで大満足でした。

以上は私の率直な感想ですが、最近良く話題に挙がる尊厳死、これを機会に両作品を見比べてみるのもよろしいのではないでしょうか?

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)映画っていいね[*] 甘崎庵[*]

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