しかしそうであっても、ベルリンでの市街戦が始まって多くの市民が戦闘に巻き込まれても「戦時に市民などいない」とヒトラーに語らせ、さらには国民のおびただしい犠牲に対しても「それが国民の選んだ運命だ」と言い、あくまでも自分の責任、自分の選択によって膨大な犠牲者を出したことを認めようとしないヒトラーの姿には、ユダヤ民族への大量虐殺者という姿以上に、戦慄を感じさせた。

そしてゲッベルス夫人による幼子の毒殺にいたる狂気は、このヒトラーの責任回避の延長線上にあるのではないかと感じさせられた。そういう歴史的な事件を取り扱った映画として、非常に重々しい問いかけをしているように思われた。

同時に、一つの映画としても、あくまでヒトラーの最後を描きながらも、軍人やナチスの最高幹部、ＳＳ、など多くの人間を登場させ、一種の群像劇の様を呈しながらも、あくまでもヒトラーの人間性とそれがもたらしたものというテーマを一貫させており、ドラマの構成としても卓越したものを感じさせた。この点でも非常に優れた映画の一つであることは間違いない。

映画のラストで、ユンゲ本人の生前のインタビューに応えた映像が写され、「目を見開いていれば・・・」と悔悟の念を語っているのは印象的だった。