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[コメント] リンダ リンダ リンダ(2005/日)

老若男女、どこに生まれていても、何をしていても、この映画を観た“かつての高校生たち”の脳裏と胸の内には、自分たちも確かに体験した永遠に続くとも思われたあの生温い時間、そう“青春時代”が生々しくも現出するだろう。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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眼と鼻の奥が甘酸っぱい記憶と少しばかりの感傷でつーんとしっ放しの114分間。普遍的で不変的な“青春時代”がこの『リンダリンダリンダ』というフィルムには焼き付けられている。

冒頭、曲選びのシーンが秀逸である。ボーカルが定まらず、ギターも素人の即席バンドにとって、部室のMDラックに収められている流行りの楽曲はちいと難易度が高い。そこで、部室の隅でほこりをかぶっていた過去のテープを引っ張り出して、その中から結果的に“ブルーハーツ”を導き出すことになる。演奏が簡単で盛り上がりやすいから、という至って不純な動機。ジッタリンジンやユニコーンを知らないイマドキの軽音娘も 「リンダリンダ」をきけば、やはりマラカスとタンバリンをもって踊り歌い狂う他ないのだ。ブルーハーツというバンドが若者に与える初期衝動。このブルハ×若者=ええじゃないか現象akaパブロフの犬的状況反射は、最後のライブシーンでやはり活きてくる。誰もバンドなんてみてやしない。文化祭の最終日、ブルーハーツという最高のBGMによってそこに現出する“青春時代”という祭りの香りに積極的に酔い、歌い踊り狂う若者たち。馬鹿みたいだ。でも、そんな時間と体験こそが、いくつ歳をとってもたまらなく愛しい。

随所に散りばめられた挿話の実在感も見事。部活やらその他の催し物に忙しくて、クラスの出し物には慢性的に人が足りない。不平不満ばかりの男子とてきぱき動く女子。見た見た、こんな風景。ビジュアル系の楽曲をなかなかのテクニックで披露するスリーピースバンドの観客の少なさがいいね。メンバーの彼女っぽい女子とその友達の一群、加えてたぶんこれもメンバーの仲良しの男子生徒が一人。ただっぴろい体育館のステージに雑魚な機材をセッティングして、即席で疑似ライブハウスに見立てるまではいいんだけど、キャパに対して圧倒的に少ない動員数。実にリアルだ。

そして、本作で何よりも活き活きと描かれているのは、あの年頃の女子たちに対して男子たちが感じる「こそこそ何か楽しそうにやってるけど、俺たちには教えてくれないよなぁ」的描写。主人公バンドからヘルプギタリストとして招集されるも、説明もないままあっけなく解雇される軽音楽部の部長。韓国人留学生に告白するも返事はうやむやにされる男子生徒。呼出場所でさんざ待たされた挙句、結局何が目的で呼ばれたのか知らされない坊主頭(余談だが、多分彼は野球部で、夏の大会も終わり、既に引退している3年生。微妙に伸び始めた坊主頭の具合が実にリアル)そして、何か格言の一つも授けてやりたいが、何も求められていない男性教諭。

みーんな、男は蚊帳の外。でも、女子たちはかしましく、本当に楽しげなんだ!

「“女子高生”“バンド”が“学園祭”で“ブルーハーツ”を演奏する」というキャッチーの限りを尽くした失禁寸前の惹句に反して、本作に登場するエピソードとその語り口は、至ってシンプルで、とても直情的で、時にニヒルで、でも、いつまでも優しい。そう、それはまるでブルーハーツの歌のようだ。

リンダリンダリンダ』は間違いなく、“青春映画”の傑作なのだ。

(評価:★5)

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